第50話 エメラルドの海で君と一緒に流星を眺めたい

「エメラルドの海で君と一緒に流星を眺めたい」




 僕の家の地下室、とても埃っぽい部屋の中で僕の幼馴染のシェリーは突然そんなことを言いだした。


実験器具の掃除をしたいという彼女の発案をうけ、僕は人生で最大級の困難に立ち向かっている。掃除なんて大っ嫌いだ。まぁ2回目なんだけど。




「せっかく僕たちの中が進展したっていうのに、なんで地下室に連れてこられて掃除させられていうの?」




「それはね、こうでも言わないとなかなか二人にしてくれないからよ。特にお姉ちゃんが……」


「カロさんがカロリーナだって本人はまだバレていないつもりなんでしょ?」




「そうなのよ。一緒にダレルの家に行った時もカロさんのまま公爵家に帰ったから、そのまま騙せてると思ってるみたい」




「まぁ公爵令嬢がだわさって言ってるのを見てる分には面白いからいいけどね。でも、そろそろ誰か教えてあげればいいのにね」




「ダレルが言う?」


「うーん。言っても言わなくても殺される気がするから、問題はできるだけ先送りにしておくよ」




「それもそうね」




 僕とシェリーは家族公認の元付き合うことになった。


 シェリーは結婚すると言っているけど、まだ具体的なことはなにも決まっていない。




「ねぇダレル」


「なに?」




「エメラルドの海で一緒に流星眺めたくない?」


「うん。聞こえてたけどスルーしてた。エメラルドの海って隣国だよ」




「知ってるわよ。あの世界一海が綺麗な国に今年は流星が流れるのよ。そんな夜に二人で一緒に手を繋ぎながら空を見上げるの。もうそこは二人だけのプライベートビーチ」


「そうはいってもサファリやソランも一緒にでしょ? 隣国だと、かなり予算が必要になると思うよ。それこそ公爵様にあげた引き分けの券までは言わないけど、今の公爵家にそんな予算ないと思うよ」




「そうなのよね」


 僕が掃除の手を止めてシェリーに同意をしていると、掃除するように促してきた。


 二人だけになるのが理由なら掃除する必要ないと思うんだけど。


 それにしても……。




「シェリー?」


「なに? どうしたの私の顔に何かついてる?」




「可愛いね。生きててくれてありがとう。いや、違うな。僕と出会ってくれてありがとう。いや、生まれてきてくれてありがとう」


「ダレル急に積極的になってどうしたの? 嬉しい。でも、見つけてくれたのはダレルだからね。あの日に私のおっぱい触られたの今だに覚えてるんだから」




「あれは事故っていうか、治すために必要だったから、それに小さい頃なんだからもう時効でしょ」


「次は……」




 シェリーが顔を赤くして何かを言いかけた時、誰かが少し強めに扉をノックした。


 ソランの優しい感じではなく、少し脳筋気味で荒らしい感じだ。


 ヘラクトス……は最近意外とその辺り空気が読める。




「誰かしら?」


「わかんない。開いてるよ」




「シェリー様、失礼します。ちょっとダレル……様にお話しが」


 そこに現れたのはサファリだった。


 なんて間の悪さなのだろう。まるで狙ったかのようだ。




「珍しいな。俺に用だなんて」


「ダレル……様、お時間よろしいでしょうか?」




 サファリはあの日からあまり僕の傍に近寄ってこなかった。


 僕に様をつけて呼ぶのが相当嫌らしい。




 だけど、そろそろ解放してあげてもいい。


 なんだかんだいいながらもサファリも幼なじみだ。




「サファリ、ダレルでいいよ。話し方も今までと同じでいい。まぁ他の人の目がある時は仕方がないかもしれないけど」


「ふん。元からお前に様なんてつける気はない。調子に乗るな」




 あっという間に前と同じに戻れるのはサファリのいいところだ。




「それでなんのようなんだ?」


「結婚祝いだ。これをお前にやろう」




「これは……? ヘラクトスとルキアの引き分けの券じゃないか」


「それはみんなの思い出にとソランが私にもくれたものだ」




「お前、これがあればもう働かなくて大丈夫だろ?」


「はぁ、働くのは金のためじゃない。一生を有意義にするために働くんだ。私にはシェリー様の傍にいることが幸せで生きがいなんだ。嫌な事などしている時間は1秒もない」




「まぁ小さい頃からずっと一緒だしな。でも本当にいいのか?」


「あぁ、その代わり条件がある」




「お祝いに条件をつけるのか?」


「当たり前だ。シェリー様を幸せにしないならお祝いなんてやらん。それと、流星を見に私たちも連れていけ」




「えっ? いいけど、なんで地下の今の話を知ってるんだよ」


「それなら、カロリーナ様がシェリー様がつけた魔法の糸に気づかれて魔法の糸電話に変えたみたいだぞ。二人の会話はさっきまで食堂で放送されてた」




「えっじゃああの……」


「まさかお前がシェリー様のおっ……」




「あっあっあっ! それ以上言うな」


「安心しろ。私はやらない。今回はカロリーナ様、他みんなが聞いていたからな。ところで逃げなくていいのか?」




 サファリが嫌な笑顔を浮かべてくる。




「くっ……シェリー逃げるぞ!」


 僕がシェリーを呼ぶと目の前に氷のナイフが飛んでいった。




「ちっ外したわ」


 サファリの後ろからどす黒い魔力を纏い、目だけを怪しく光らせたカロリーナが現れた。


 あの会話も聞かれていたらしい。




「だわさってつけなくていいのか?」


「コロス」




「ダレル、なんでそうやって怒らせるのよ」


「それはね……」




 僕はシェリーをお姫様抱っこで抱きかかえると、そのまま地下室にあった暖炉へと向かう。そこには非常用の脱出装置がある。




「えっなんで?」


「ほら、シェリーとここから逃げ出す時にシェリーを合法的にお姫様抱っこできるじゃん。しっかり捕まってて」




「離れてくれなんて言われても離れないわ。行くのよ、ダレル」


 僕は暖炉の中に滑り込むように入り込むと、そのまま足に魔力を込める。




「ダレル、ずっと好きよ」




 シェリーが僕の耳元で囁くように呟いた。


 僕は一瞬シェリーの顔を見るといつものいたずらする時の笑顔をしてきた。


 そのまま強く抱きしめると、魔力を爆発させて煙突から飛び出した。




「シェリー次はどんな世界が僕たちを待ってるんだろうね?」


「決まってるじゃない。楽しい世界よ」




 煙突からカロリーナが僕の悪口を言っている声が聞こえてきたが、流星群を見に連れていけばきっと許してくれるだろう。




 当分、二人っきりになれることはないだろうけど、それでも二人の関係が少し発展しただけで僕は満足だった。


 そして僕たちは隣国へ流星を見に行くことになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公爵令嬢と平民魔法使いの恋 かなりつ @KanaRitsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ