第42話 「サファイアの月夜の下で君の屍と踊りたい」
闇魔法、地獄の亡者と呼ばれる魔法が飛んで来る。あれは地獄から召喚された亡者が生きているものを地獄へと引きずり込む上級魔法だ。だけど、実は欠点があるんだ。
「ルキア借りるよ」
「えっ? うん」
「光の精霊よ。亡者たちの進むべき道を示せ」
光の精霊が僕の前で光輝くと、亡者たちは向きを変えダミノへと襲い掛かる。
「あらら、すごいわね。そんなことも知ってるなんて」
「うちの家系は先祖代々優秀だからね。僕は小さい頃から沢山の文献を読んで学んできたんだよ。お前みたいな奴に簡単にやられたりするもんか。シェリー風の精霊を借りるよ」
僕の身体を風の精霊たちが後押ししてくれる。
風の精霊たちもシェリーを守れなかったことを怒っているようだ。
激しい力は僕の身体の限界を軽々と超えていく。
「そんなことまでできるなんて若い力に嫉妬しちゃうわ」
「どんな理由だろうと人を攻撃するからには殺される覚悟を持たなきゃダメなんだ」
ダミノの左肩から右の下腹部にかけて肉がはじけ飛ぶ。
さらに追い打ちをかけるように、返す剣で首へと一撃を入れる。
首を斬り落とすまではいかないが、たしかな手ごたえはあった。
「こんなはずじゃなかったのに……。まぁいいわ。できることはしてあげたし。それじゃあまた会いましょうダレル」
ダミノはもう人という概念から一歩外の世界へ踏み出したのかもしれない。
致命傷であろう傷をくらいながらも、まだ生きている。
「逃がすか」
それなら死ぬまで攻撃するまでだ。
あと少しでいい。カロリーナをはじめとした仲間たちの攻撃も続いているが、誰一人として攻撃を当てることはできない。
なんでそんなにゆっくり戦っているんだよ。
そんなことを思ってはいけないとわかっていながら、自分の不甲斐なさに泣きそうになってくる。
「風の精霊たちよ。もう少しだけ、あともう少し力を貸してくれ」
この時、風の精霊が戸惑っているのがわかった。
僕は先ほどの攻撃ですでに両足の腱を痛めてしまっていたのだ。こんなのは回復薬をかければ……そうか。シェリーにすべて使ってしまっていたんだ。
あと少しなのに……。
いや、絶対にあきらめるものか。身体を大きく振りかぶり、なんとか身体をバネのようにしてダミノに向かって剣を投げつける。
「いっけー!」
剣はダミノの心臓付近に直撃するとそのまま、敷地の外へとふっ飛ばしてしまった。
あれで死んでいなければ、今の僕にはどうすることもできない。
倒れそうな身体を風の精霊たちが支えてくれている。
なんとか身体をなんとか奮い立たせ、ギリギリのところで踏ん張る。
僕にはまだやることがある。
カロリーナたちが追いかけて行く中で僕は彼らに背を向けシェリーの元へと向かった。
シェリーは静かに眠っているように見える。
また起きてきてあの太陽のように明るい笑顔を見せてくれる、そんな気がしてならない。
「ダレル様」
「ソランは復讐するために追いかけないのか?」
「私はシェリー様のメイドですから。シェリー様をお守りできず申し訳ありません」
「それは僕のセリフだよ」
「シェリー様にあれをなさるつもりですか?」
「シェリーから聞いていたのか。僕がこれからすることをソランは反対するかい?」
「私はシェリー様に何かあればダレル様に仕えるようにと言われていましたので、ダレル様の望まれることをお手伝いさせて頂きます。例えそれが茨の道であろうと、私はついていきます」
「ありがとう。シェリーを地下室へと運んでくれるかい?」
「承知しました」
「サファイアの月夜の下で君の屍と踊りたい」
こんな言葉を君に送ってはいけないのかもしれない。
だけど、僕はこのまま理不尽な世界の理を受け入れることはできないんだ。
剣と魔法のファンタジー世界だからこそ見れる世界はきっとあるんだ。
この日の一週間後、シェリーのお別れの会が華やかに執り行われることになった。
その日は彼女の明るさとは対照的にあいにく小雨が降っていた。
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