幸せなもの

たま

幸せなもの

 この世界には、「幸せなもの」がたくさんありました。

 幸せと幸せを足し算したら、もっと「幸せなもの」になりました。

 真っ赤な「いちご」と新鮮な「牛乳」を、ミキサーで混ぜたら「いちごミルク」。

 スベスベの「布」とふわふわの「綿」を、糸で縫い合わせたら「ぬいぐるみ」。

 毎日新しい「幸せなもの」が見つかりました。


 広い砂場からお宝を掘り出すみたいに、いっぱいの幸せを集めました。

 小さいのも、大きいのも、「幸せなもの」はいつもキラキラしていました。

 周りに「幸せなもの」を並べて、その中央に座るのが好きです。

 みんなが僕を中心に回っているみたいで、まるで太陽になった気分でした。


 でも「お父さん」と「お母さん」から生まれた「僕」は不幸でした。

 きっと「お父さん」と「お母さん」という材料が不幸でした。

 だから完成した「僕」はもっと不幸になりました。

 僕は生まれたくなかったので、産まれてすぐ大声で泣きました。


「お父さん」が「お母さん」の中で一瞬だけ気持ちよくなったせいで、

「僕」という消えない気持ち悪さがあります。

「不幸なもの」が「不幸なもの」の中で一瞬だけ幸せになったせいで、

「僕」という永遠の不幸せがあります。


 ある日、「幸せなもの」が変化していることに気づきました。

「いちごミルク」は、色と匂いが変になって不味くなりました。

「ぬいぐるみ」は、ちょっと力を入れて引っ張ったら千切れました。

「僕」は、毎日叩かれて肌がおかしな色になりました。


「幸せなもの」は簡単に「不幸なもの」になります。

「不幸なもの」が「幸せなもの」になるのはとても難しいです。

「不幸なもの」は、ずっと「不幸なもの」のままでした。


 僕を生んだ「不幸なもの」は、愛情と一緒に消えていきました。

 僕を育てた「不幸なもの」は、お金と一緒に消えていきました。

 そばにいた「不幸なもの」がいなくなって、僕は一人になりました。

 それでも僕は不幸でした。

 たくさんの傷が残りました。


 いつしか僕の周りには「幸せなもの」ではなく、大勢の大人たちがいました。

 ある人は同情の涙を流し、ある人は慰めるように頭を撫でてきました。

 やっぱり僕は可哀想なのだと、「不幸なもの」なのだと思いました。


 それから僕は大人になって、大切な人ができました。

 久しぶりに「幸せなもの」が手に入りました。

 でも僕は怖くなって、それを「不幸なもの」に変えました。

 彼女は肌の色がおかしくなったけど、僕から離れることはありませんでした。


 そんなある日、僕は彼女の中で一瞬だけ気持ちよくなってしまいました。

 僕はとても後悔して、彼女のお腹を何度も何度も殴りました。

 僕が「不幸なもの」を消してあげたので、彼女は泣きながらありがとうと言いました。

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幸せなもの たま @tama03

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