第18話 やばいやばいやばい



「羽黒ぉぉっ! 逃げろぉぉっ」



 知らずのうちに、俺も叫んでいた。



「羽黒、逃げろ、逃げろ!!」



 これ、まじでやばいんじゃないか?


 と、その時。


 畳の上で腕十字をかけている相手の生徒とかけられている羽黒。


 ふたりの身体が何の拍子かもつれて離れた。



「待てっ」



 審判の声がかかる。


 あぶなかった。


 まじで負けたかと思った。


 ほうっと息をつく。


 相手が離れたあとも、羽黒はほんの数秒寝たままで、一瞬俺はドキッとした。


 立ち上がった羽黒は、右肘をおさえていた。


 審判が羽黒に声をかける。



「できるか?」


「できますっ!」



 だが審判は副審を呼び、副審が羽黒の肘を見る。


 いったん試合中断だ。



「肘、曲げられるか?」


「はい、大丈夫です」



 余裕のある笑みで答える羽黒。


 本当は痛いんじゃないか?


 しばらく副審が羽黒の肘の様子をみたが、結局試合続行は可能という判断らしく、副審席へと戻っていく。



「始め!」



 審判が号令をかけると、羽黒はすばやく相手のふところにもぐりこむと左手で相手の袖をつかみ、一瞬背負投のフェイントをいれたあと、右足で相手の左足を内側から刈る。


 俺が前にやられたコンビネーション技だ。


 そのまま大内刈りで浴びせ倒すよう羽黒。



「いっぽぉぉぉん!」



 審判の声が響き渡り、羽黒の優勝が決まった。






「やばいやばいやばい」



 表彰式が終わったあと。


 羽黒は青ざめた表情で俺に言った。



「やばいよこのままじゃ私……」


「大丈夫か、折れたりしたのか?」


「あ、ん……腕は、だいじょぶ……まだちょっと痛いけど……私の関節、多分普通の人よりちょっとだけ柔らかいから……それより、それよりも!」


「なんだよ……」


「どうしよう、私関節技練習したことない!」


「へ?」


「中学生までは関節技禁止なの! だから避け方知らないの! 今のもすごく危なかったの!」



 なるほど。


 羽黒はもともと室側女子中等部で柔道をしていた。


 だけど、高校生になってから自主練しかしていない。


 関節技を教えてくれる人が、周りに誰もいなかったのだ。


 こればっかりはさすがの羽黒も自分ひとりで練習するわけにはいかない。


 その日から、俺たちの指導者探しが始まった。

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