第15話 投げられマシーン
「へっへー、みなさいよこれ!」
数日後の放課後、武道場。
いつのまにやら完全復活した羽黒が、俺に一枚の紙を渡してきた。
柔道着を着た瞬間、羽黒が快活スポーツ少女に変わるのがすごくおもしろい。
二面性のある女の子っていうの、これはこれで興味がつきない。
こいつ、家に帰るとどっちのバージョンなんだろうか? もしかしたら第三の性格があったりするのかな?
「……あんた、なに人の顔をぽけーっとみてるのよ。ほら、これこれ」
羽黒の差し出す紙をみてみる。
そこには、「部活設立申請許可書」と書いてあった。
柔道部、としっかり書いてある。
「どう?」
「うん」
「うんじゃなくてさ。野上先生がいろいろ動いてくれて、あっさりとできちゃった。部費は今年はさすがにゼロだけど、もし試合を勝ち進めたら試合会場への旅費くらいはなんとかしてくれるって」
野上先生って、わりと面倒見がいいんだな。
元レスリング選手だし、声も身体もでっかくて、怖い体育教師だとばかり思ってたけど、見直した。
よく見ると、部員の欄に、
「部長 羽黒楓
部員 月山淳一」
としっかり書いてある。
うん、柔道部に入るって羽黒と約束したんだし、これはこれでいいな、羽黒と二人だけで名前が並んでるのは、なんだか悪くない気がする。
「ギリギリ間に合ったんだよね、よかった」
心底嬉しそうに羽黒は申請書を眺める。
「間に合ったって、なにが?」
「試合。再来週の日曜日、地区予選があるんだ。試合の登録、間に合うタイミングじゃなかったらしいけど、野上先生がなんとかしてくれたみたい、へへへ」
「そっか、試合か。……まさかとは思うけど、俺は登録されてないよな?」
「うーん。私は登録してもらおうと思ったんだけど、野上先生がさすがに一ヶ月もたたない初心者は危ないし駄目だ、って。投げ込みならともかく、試合だとみんな強引な体勢からでも投げに来るし、確かに今の月山くんだと怪我すると悪いから……。ごめんね」
いや、うん、謝ることはないだろう、俺だって自分が試合に出られるほどのレベルじゃないのは知ってる。
その日からの練習はさらに激しくなっていった。
羽黒は随分はりきっているようで、
「朝練やろ、朝練! ね、ね、ね?」
俺の袖を持ってぴょんぴょん飛び跳ねる。
おいおい、待ってくれよ、俺はいつアニメ鑑賞すればいいというんだ。
とは思ったものの、目をキラキラさせている羽黒の表情に負けて、結局朝練にまでつきあうことになってしまった。
冗談だろ?
この俺が、まさか運動部に所属して朝練までするとは。
ほんの一ヶ月前まではまったく考えられなかったことだ。
朝に投げられ、夕にも投げられる。
もう、俺は羽黒楓専用の投げられマシーンになった気分だ。
いや、それだけじゃなかったな。
羽黒は俺に少しずつ柔道技を教えてくれて、俺は出足払いと送り足払いを覚えた。
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