第11話 千歳と一色くん
病院に行った翌日も、わたしは調子よくエネルギーを発生させた。
主に森口くんを意識して発電しているが、ちらっと堀切くんがわたしを見るときがあって、それにも敏感に反応して、発電機がヴヴーンと軽快に回る。今日は彼と目を合わせた。
わたしは森口くん、堀切くんのどちらも好き。
休み時間に千歳と一色くんがおしゃべりしていた。
恋バナ好きで人懐っこい千歳とちょっとずるいけど基本的には人が好きで情報通な一色くんは気が合うようで、ときどき会話が盛り上がっている。
「うちの高校の生徒会長と副会長って、男女でやる不文律があるんだって。代々の会長と副会長はたいていつきあうようになるらしい」
「一色、詳しく聞かせて」
「男子と女子両方の意見を汲み上げるために、会長が男だったら副会長は女、会長が女だったら副会長は男っていう伝統があるんだ」
「いい伝統だ~。それでそれで?」
「生徒会長は選挙で選ばれるんだけど、副会長は会長の指名制。会長はまあ憎からず想っている異性を指名するわけだ。副会長を受けたらほぼカップル成立なんだってさ。これは先輩に聞いた話」
「くはー、あたし立候補しようかなあ」
「誰を副会長に指名するんだよ?」
「一色、指名されたい?」
「エロいことさせてくれる?」
「バーカ」
なんか色っぽい話が聞こえてきた。
ふたりはとても楽しそうで、千歳と一色くんは発電しているように見えた。
発電音は本人にしか聴こえない。自分では発電機が動いているかどうかわかっているが、それは隠すのが基本。
わたしは聞きながら発電していた。
その日の放課後、わたしは千歳とユナさんと一緒にドーナツ屋へ行った。
「日本ではこのミタドが強いけど、世界ではダンドが圧倒的に強いんだよ~、知ってた?」
「えっ、そうなの。知らなかった」
「世界最大がダンドってことは知ってる」
わたしと千歳は好みのドーナツと飲み物を買って着席。ユナさんは今日もコーヒーだけだった。
「昨日休んだの、どうして? 風邪でもひいた?」
「発電外科へ行ったの。発電ユニットを交換することになった」
「へー、なんで?」
「わたし、実は発電量が平均より多いみたいなの。普通の蓄電機では足りなくて……」
「それは知ってる」
「見てればわかる」
「十人級発電ユニットをつけることになった」
「ほお~、十人級」
「平均より多いなんてもんじゃないわね。普通はオーソドックスな体内蓄電機を1日でフルチャージすることもないから、10倍以上の発電量があることになる」
「十人級をフルチャージはできないと思うから、10倍はないと思う」
「いや、奏多なら軽く10倍ありそう」
「あるわね」
「ふたりで息を合わせて攻めるのはやめて」
「恋愛脳」
「恋愛狂」
「いいかげんにして! 千歳だって恋愛脳でしょ。今日、一色くんとおしゃべりしながら、発電してたよね」
「あちゃー、バレてたか」
素直に認めて、千歳はへにゃっと笑った。
「一色くんが好きなの?」
「別に~。堀切くんの方が好き」
「そんなこと言って、本命は一色くんなんじゃない?」
「まあ女心が移り変わることはあるかもね~」
「否定はしないんだね」
「今日は攻めてくるね~、奏多」
「反撃だよ」
「一色くんは千歳が好きだと思う」
「おわっ、ユナからも攻撃が。一色はユナが好きでしよ。あいつ、面食いだし」
「それはない。彼からは告白されたことがある。すでにお断り済み」
「げっ、いつの間に?! 撃墜王め」
「一色くんの千歳を見る目、告白前に私を見てた目と同じだよ」
「マジ?」
「マジ」
「う~、どうしよう。あたし、高校では絶対に彼氏がほしいんだよね」
「一色くんでよくない? 相性は良さそう」
「あいつは好みじゃない」
「なんで? 楽しそうに話してるのに」
「あいつは小ずるい」
「確かに」
「そういうとこあるね」
「いや、でもやさしいとこもある」
「そう?」
「ねえよ」
「ふたりして一色をディスらないで。あるの」
「はいはい」
「そういうことにしておいてあげる。で、一色くんとつきあうの?」
「こ、告られたら考える」
千歳の顔が赤くなっていた。カワイイ。きっと発電してる。
彼女をいじりながら、わたしももちろん発電していた。
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