恋愛発電
みらいつりびと
第1話 恋愛発電ユニット起動中
授業中だったけれど、好きな人と目が合い、胸がキュンとなって、わたしは恋愛発電した。
心臓の横に埋め込まれている発電ユニットが回転するヴーンという音を、わたしは骨伝導で聴いた。
この音は微小で、他人には聴こえていないはすだが、体内ではしっかりと鳴っているので、やっぱり誰かに聴かれているのではないかと気になった。
両隣の席をそっとうかがったが、気づかれているようすはない。
右隣の
教室内では男子と女子が交互に席についている。
わたしの右と左、前と後ろに男子。
斜め前方、後方に女子。
男子と女子が格子模様を描くように座っている。
まるで恋愛してくれと言わんばかりの配置じゃないかと思ってしまう。
体内のヴーンという音は、わたしが恋をしている証拠。
そう思うだけで、また胸がドキドキして、ヴヴヴヴーンと恋愛発電ユニットが激しく震動した。
なんだか恥ずかしくて、顔が熱くなった。
好きな人はもう教師を見ていて、わたしの方を向いてはいない。
目が合ったのは一瞬のことだった。
わたしはずっと見つめていたのに。
あの瞬間、彼は少しくらいは発電してくれただろうか。
わたしのことなんてまったくなんとも思っていなくて、彼の発電機は起動しなかっただろうか。
そんなことも気になって、心臓がドキドキする。
そうしてわたしの発電機は回り、蓄電池に電気を送りつづけている。
体内発電機と体内蓄電池。
このふたつが恋愛発電ユニットのメイン装置で、その他の細かい構造はよく知らない。
しくみなんて知らなくても、ユニットは胸のときめきに反応して、勝手に動く。
ヴヴヴヴヴーン、ヴンヴンヴン、ヴイーン。
もういいから静まってと思うが、止まらない。
わたしは発電しやすい体質なのだ。
恋愛体質と呼ぶべきかもしれない。
わたしはいつも、恋愛のこととか、男の子のこととかを考えている。
恋愛脳と言われてしまうかもしれない。実際、中学時代にそう言われたことがある。カナタはレンアイノウだね、と友だちから。そのときに恋愛脳という言葉を知った。その子は別の高校へ行き、交流が途絶えている。
愛読書は恋愛小説と少女漫画だ。
いまも堀切くんのことを意識しつづけている。
好きな人は誰なのかな。
恋人はいるのかなあ。
美男美女のカップルで、デートしたりしているとか。
それとも蓼食う虫も好き好きで、わたしのことが気になってたり。
いや、それはないか。
期待してはいけない。
胸がむずむずして落ち着かない。授業にまったく集中できなくて、わたしは額ににじんできた汗を手の甲で拭った。
「
ギクッとした。
左隣の席の一色くんが、わたしの顔を見て、にやにやと笑っていた。
発電音が聴こえたのではないと思いたい。そんなの恥ずかしすぎる。
たぶんわたしの仕草で気づかれたのだろう。
とにかく発電しているのが、彼に察知されてしまったようだ。
発電してるというのは、恋してると同義。
そんなこと訊かないで、と思ってわたしは無視したが、一色くんの声は彼の前の席に座っている
彼女は斜め左前方から振り返ってわたしを見て、右手を軽く口に当て、嬉しそうに、にまぁ~っと笑った。
一色くんと沖館さん、ふたりとも笑い方がいやらしい。
沖館さんがノートになにか書いて、ちぎった紙片をわたしに寄こした。
『誰で発電したの? 後で恋バナしよーね』
絶対に嫌。
堀切くんで発電しているなんて、知られたくない。
クラスで一番顔立ちが整っている男の子。
推定だが、クラスの女子の9割方が彼に好意を持っている。
彼に熱い視線を送る女の子は多い。わたしもそんな女子の一員。彼と目が合っているのは、わたしだけではないはずだ。
ありきたり過ぎる恋でわたしが激しく胸キュンし、ずっと恋愛発電ユニットを動かしつづけているなんて、知られてはいけない。
このわたし、
片想いでいい。
片恋でも発電できればそれでいいのだ。
それにしてもよく動く発電機だ。
超小型蓄電池はすでに満杯になっているだろう。
そろそろ止まってくれてもいいんだよ。
そう思うのだが、止まれと意識するのがかえって悪いのか、ヴーンという音は鳴りつづけた。
4月中旬。
もう入学式から2週間が経つが、高校で友だちをつくることができていない。
孤独なわたしは、学校で男の子を見つめて、ひそかに心臓をときめかせ、しっかりと発電する毎日を送っている。
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