第37話 こたつで丸く

 家の中に戻ってきて、俺は再びこたつに吸い寄せられた。

 窓の外を眺めると、しんしんと雪が降り続いていてもう5cmくらい積もっていた。


 「花野井さんも、こたつ入る? 暑くなったら服とか調節してもらっていいから」 


 快適すぎて、もう身動きが取れなくなってしまったので、花野井さんをこたつに誘う。

 さっき着せたジャンパーをまだ羽織っているので、俺はそう声をかける。


 「分かりました。久しぶりに入ってみたかったんです」


 花野井さんはそう言うと、おもむろに黒のニーハイソックスを脱ぎ始める。

 するすると靴下を下げていくと、日に焼けていない、美しい生足が徐々にあらわになって、つい俺はドキッとする。


 調節するのはそっちなんだ、と思った。


 こたつの上の布団を上げると、クロときなこは中に潜っていった。


 「……今度の週末、どこか一緒に行かない?」


 さっき目撃した光景は置いておいて、と。通常モードで会話することを心がける。


 「いいですね……! クリスマスですし、きっと賑やかでしょうね」


 クリスマス、何を贈るかまだ決めてないんだよなあ……。

 クロときなこにはちゅーる1ヶ月分を贈呈する予定だけど。


 「イルミネーションとか見たいなあ」

 「そ、そうですね」


 話を続けようとすると、びくっと花野井さんが体を震わせた。


 「こ、こそばゆいです……」


 花野井さんは頬をほんのり赤くして、もじもじ動きながらこたつの中をのぞきみる。

 どうやら、中の2匹が好き放題やっているらしい。彼らは人の足指を思っていない節があるからなあ。


 「もう……なら私も、撫で撫でします」


 花野井さんは猫2匹と同じようにもぞもぞとこたつの中に潜っていった。


 しばらくして、花野井さんはぴょこっとこたつから顔を出す。


 「こたつの中……やっぱり、気持ちいいですね」

 「熱中症にはならないようにね」


 花野井さんの額が軽く汗で光ったような気がして、俺はにやっと笑ってそう返す。

 去年きなこと一緒に潜ってて干からびかけたもんなあ……。思い出すと、あんまり笑えねえな。


 またしばらくして、花野井さんは腰から上あたりをこたつの外に出す。


 「暖まりました……気持ち良すぎて、もう出られません」

 

 すっかりこたつの虜になってしまったようだ。

 花野井さんは、こたつから這い出てきたけれど、膝から下は中に突っ込んだままで出る気はさらさらなさそうだ。


 暖まってきたら、眠くなるんだよなあ……と、若干とろんとした目をした花野井さんを見ながら思う。

 もしかしたらこたつの魅力にとらわれてしまっただけなのかもしれないが。こたつに花野井さんを取られてしまったのか……?



 「むにゃ……」


 花野井さんは、こたつから出てきたあと座り直したが、俺の方に寄りかかってきていて、これは寝落ちするのでは……と思っていたら案の定。

 

 花野井さんはかくっ、かくっと揺れて、頭が下の方に段々と下がっていく。


 花野井さんは、正座をしている俺の太ももの上に頭を載せる体勢になった。花野井さんが寝息を立てるたびに、俺の太ももにかかってむずむずする。

 猫みたいに丸まって寝ていて、ほんとうに可愛らしい。


 花野井さんは、幸せそうな表情をしていて、口元が少し緩んでいる。つんつん、と指で軽く押してみたくなるような弾力のある頬。蠱惑的な魅力のある唇。

 わずか30センチぐらいの距離のところに、花野井さんの顔がある。


 「そんなに無防備な寝顔を見せられたら……こっちだって、立派な男子高校生なんだけど」


 悶絶する俺をよそに、暖まり終えて満足した様子のクロときなこは、こたつの上のテーブルで香箱座りをしていた。


 足は若干痺れてきたが、花野井さんの寝顔を眺めていれば耐えられる……耐えられ……。



 20分ほど経って、ちょっかいをかけてしまいそうなのと、足が限界に到達したので俺は、花野井さんをつんつんとして起こす。

 ……このとき、ほっぺたに触れたのはセーフですよね? 見逃してください。


 「……え、ひゃあ!?」


 起きた時に俺の顔が目の前にあるもんだから、花野井さんは顔を真っ赤にして驚いている。


 「その……猫村くんの膝枕が気持ちよくて、ついぐっすり眠ってしまいました」

 

 花野井さんは動揺して今の状況が普通だと思っているのか、まだ俺の膝に頭を載っけている。


 「……い、今もでしたね」


 花野井さんは、慌てた様子で飛び起きる。


 「その、こたつよりも気持ち良かったです」


 こたつに花野井さんを取られなくて済んだみたいだ。一安心。


 「クリスマス……楽しみですね」


 花野井さんは、両手の指と指を合わせながら俺の目を見上げて言う。


 「うん。俺も」


 俺たちは、定番のこたつでみかんを食べながら会話を続けた。







 






 

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