第19話 文化祭の出し物
「次の時間は文化祭について決めてもらう。クラス企画の係を先に出して、企画内容まで決めてもらうからな」
休み明けお決まりのロングホームルームの終わりに、担任がそう宣言する。
「えー、何がいいかな?」
「お化け屋敷は?」
「あり」
「いや、縁日もありじゃない? みんなで浴衣着たりしてさ」
休み明けで皆のテンションは相変わらず高いのに、文化祭という一大イベントについての話題が投下されたら、盛り上がるのは当然。
浴衣の花野井さんは見たいので、俺としては縁日は大ありだ。
……でも、やっぱり喫茶もいいよなあ。
さっきの花野井さんとの会話を振り返りながら考えているなか、とんとんと肩に触れられたのを感じて横を向く。
「あの……文化祭の係、一緒にやりませんか?」
花野井さんは、頬を赤らめて尋ねてくる。身長差的にどうなっても上目遣いで頼まれるのはずるい。
普段の俺だったら、そんなのする柄でもないよーって言って断っただろうけど、学校で誰に咎められることもなく花野井さんと話すチャンスを、みすみす逃すわけにもいかない。
「……やってみようかな」
「良かったです。一緒にこういうことするのも、友達らしいなと思ってて……やってみたかったんです」
まだ決定してないんだけどな、とは思ったけど。あまりにも花野井さんが嬉しそうだったから、無粋なことは言わないように気をつけておいた。
「クラス企画の係、したい人ー?」
担任に仕事を任されたらしい女子の学級委員が皆に質問する。
「おー、決定だね!」
俺たちふたりだけが、手を挙げているのを確認して、彼女は嬉しそうな声を上げる。年度始めに、男子の学級委員を決めるときはずいぶん難航したもんなあ。
「じゃあ、あとはふたりに任せた!」
そして、俺と花野井さんふたりに全決定権が渡された。さっそく企画を決めていこう。
「……どうします?」
「え、まず、とりあえず色々候補出してもらって多数決取ろうかな」
花野井さんが、小声で話しかけてくるものだから、俺は少しだけかがんで話を聞く。
少し周りで話し合う時間を設けて、色々候補を言ってもらう。
「やっぱり喫茶がいいかな」
「喫茶ならメイド服着てほしい」
「縁日したいな」
「メイド喫茶希望」
などなど。
予想してた通り、たくさん出てきたな。一部男子諸君の欲望が隠しきれてない感じがするのは大丈夫だろうか。
花野井さんが背伸びして、黒板の上の方から候補を書いていっているのを見て、変わるよと声をかけた。
「ここまで挙がった候補から、多数決を取ります。1人1票でお願いします」
俺はそう言って、さっそく多数決に移る。
結果は、喫茶と縁日が同じ票数で人気だった。
同率1位の喫茶と縁日でもう一度多数決を取る。
……が、またも人数は同じになった。なんでだ。あと、手を挙げていないのは俺たちふたりだけだし。
「あ、花野井と猫村、すまない。まだ宿題を集めたりしてなかったから、今日のところはこれまででいいか? 明日また時間があるから」
「分かりました」
担任が戻ってきて、今日のところは、話し合いはストップ、ということになった。
「ふぅ……どうしようかな」
休み時間、俺はぼんやりと明日以降の話し合いについて廊下を歩きながら考えていると、角の方から誰かの独り言が聞こえてきた。
「……はあ。男子って、いつもあんなことばかり考えているのかしら。……メイド服だなんて」
この声は……俺たちのクラスの、氷室さんかな。花野井さんと同じように、美少女として二つ名があるのだが……。
彼女はその名字もあって、氷の女神、と呼ばれている。黒髪ロングヘアで、身長は高い方。可愛いというよりかは、美しいと言われているのをよく聞く。
うちのクラスのゲーマーは、シヴァとか言っていた。ファイナルファンタジーのやり過ぎかな?
「……紬に嫌な思いをさせたら、許さない」
そう冷たい声で呟いたのが聞こえて、俺は息をひそめる。
花野井さんは子猫のような可愛さだとしたら、氷室さんは、大人の猫のクールな印象見たいな印象があるな。
「「あ」」
俺がいた場所がまずかった。ここ、どう考えても通り道だもんな。
「……さっきの、聞いてたのかしら?」
「あ……ごめん」
気まずい静寂が辺りを支配する。
「……そういうことだから、その……頼んだわよ」
氷室さんは、恥ずかしそうに顔をそむけて言う。新たな一面を見つけてしまったようだ。
「どうしたんですか、氷室さん?」
「あ、紬! いや、何でもないよ?」
すぐさま氷室さんは動揺した様子でどこかに行ってしまった。ん……?
あとから、花野井さんに氷室さんは友達なんだと教えてもらった。
氷室さんのためにも、花野井さんが満足できるような企画にしないと、だな。
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