高校⑦

 中学3年の学年主任の主張から癖のようになっていた勉強のお陰で、高校での成績は比較的上の方をキープ出来た。

 卒業後は実家から離れた県外の大学に進む事が決まった。

 浩香も学力的になら同じ大学でも余裕だっただろうけど、地元の国立大学に行く事になったらしい。


 卒業式は小中学校の時ほど泣いている奴は多く無かった気がした。

 浩香も今回は泣いた気配が無く、いつもの明るい笑顔だった。

 母親sに促されて校門前で撮った写真には、無表情な僕と相変わらずの可愛らしい笑顔が写っていたのはいつもの通り。


 『4月から大学生だね。』


 『そうだな。』


 『しっかり勉強して、いっぱい遊ばなきゃね。』


 『ん。』


 卒業式後はすぐに県外に出て行く事が決まっていた。

 挨拶程度は出来るかもしれないが、実質、浩香とゆっくり話せるのはこれが最後だと思う。


 『頑張ってね。』


 『浩香もな。』


 『イヤな事があったらすぐ連絡してくるんだよ。』


 『大丈夫だよ。』


 浩香が僕の手を握ってきた。

 僕はその手をきゅっと握り返す。

 視界がぼやけた。


 『何泣いてんのよ……』


 自然と涙が溢れていて、頬を伝って落ちていた。

 袖で拭こうとした腕を浩香に止められ、浩香が取り出したハンカチで涙を拭いてくれた。


 『いつまで経っても泣き虫なんだから……』


 『子供扱いすんな。』


 『ごめんね……』


 『ありがと……また連絡するよ。』


 『うん。私からも連絡する。毎日!』


 『毎日はちょっと……』


 『じゃあ二日おき。ちゃんと返事くれなきゃダメだよ?』


 『分かってる。』


 いつの間にか母親sは居なくなっていた。

 騒がしかった校門前も数名が名残を惜しむように駄弁っているだけだった。


 『帰ろっか。』


 『だな。』


 僕は浩香と手を繋いで家へと帰って行った。

 ずっと一緒に過ごして来た浩香と、明日からはこうして手を繋げる距離に居ない事を思うと、また鼻の奥がツンと痛んで涙が滲みそうになったけど、何とか堪えて空を見上げた。


 簡単に人を泣かせる浩香なんて大嫌いだ。

 

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