運命の出会いは良きものと思われがちだがそうでない時もある 1

「どうしたの? マテア! その格好!」


 夜明け前、ふらりと青月の宮に現れたマテアを見つけた聖女たちの誰もがその言葉とともに絶句した。


 そうなるのも無理はない。胸のところでかきあわせた衣は泥と枯れ葉にまみれ、鉤裂きだらけでもう二度と着衣できないほど裂けてしまっているし、汚れた手足はいたるところに切り傷や擦り傷ができて血が流れている。乾きかけた土がこびりついた髪はぐしゃぐしゃに乱れて首や顎に貼りつき、一体どれほどの時間涙を流し続けていたのだろうか、瞼も頬も、赤く腫れていた。


「どうしてそんな姿に…………!」

「レイミが交替に行ったとき、あなた、いなかったそうじゃない」

「みんなで捜していたのよ?」

「何があったというの、マテア!」


 マテアがかすかに衣擦れの音をたてながら前を通りすぎた後、ようやく我に返った聖女たちは先を争って彼女をとり囲み、次々と言葉を投げかける。その声に反応してか、マテアはわずかに唇を開いたが、いくら耳をそばだてても、何もつむぎ出されはしなかった。


「マテア! 答えて!」


 たまりかね、イリアが肩をゆさぶった。けれどマテアは応えようとしない。瞳にはたしかにイリアの姿が映っていたが、心まで届いてはいないようだった。

 焦点のあっていない、虚ろな目のまま、マテアは右足を引きずりながら彼女たちの間を抜け、ゆっくりと、自室へ向かって歩いて行く。その不確かな足取りは、まるで一寸先も見えない真暗闇の中を進んでいるようだった。


 一体何があったというのだろう? 昨晩、彼女は主神殿の祭壇で月光神に祈りをささげていたはずなのに、交替の聖女が行ったとき、彼女の姿はどこにもなかったという。香木はすっかり燃え尽きて、熱の名残りすらなかった。机の上には彼女が持ってきた香木がそのまま残っており、交替した後すぐ消えたらしい、との報告を受け、警備の若者たちと聖女全員が捜索に加わったけれど、主神殿はおろか月光神殿のどこにも彼女の姿はなかった。


 祈りをささげていた彼女の身に、一体どんな災いがふりかかったというのか。


 ほんのわずかな時間に彼女を幽鬼のように変えてしまった、それを知ってしまうことのおそろしさに誰もが心を竦ませ、口をつぐむ。その場にいる誰一人として、あとを追うことはできなかった。ただ、回廊奥の闇へと消えてゆく、その背を見送るのみだ。


 そしてまた、憔悴しきった無残な姿に目を奪われて、誰もが気付いていなかった。いつも彼女の身を包んでいた、金色の輝きが失われてしまっていることに……。

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