第29話 二人の本心
俺は急いで涼葉の家に向かう。
まだ傷が完治していないにもかかわらず病院を抜け出して、しかも走っているので腹部がとても痛い。
きっと服の下で出血しているのであろう。
服が肌に張り付くような不快感を感じる。
そうして10分ほど走り目的地に到着する。
俺は涼葉の家のチャイムを鳴らす。
数十秒ほど待ったが返事はなかった。
「涼葉~いないのかぁ~」
そう声をかけてみるがやはり返事がない。
「どうすればいいんだ…………」
俺が玄関前で立ち尽くしていると、後ろから足音が聞こえてきた。
俺が振り返るとそこには涼葉がたっていた。
涼葉も俺の存在に気づき、踵を返して立ち去ろうとする。
「待て。涼葉。」
そういって俺は涼葉の手を握る。
「放してっ!一君」
そういう彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
「涼葉、なんで泣いてるんだ?」
俺はとりあえず手を放して涼葉と話すことにした。
涼葉ももう逃げる気はないらしく、俺と向き合いはなし始めた。
「一君、ごめんなさい。いつも助けてもらって、そのたびにあなたは傷ついてるのに私は一君に何もできてない。」
「そんなこと…………」
「そんなことあるよ。私たちが初めて会った時だって君は見ず知らずの私を助けてくれた。そのせいで一君が虐められて、私はその時の虐めに耐えられなくなって自殺しようとしてるところを助けてくれた。私はいつも助けられてて、でもそのせいで一君はいつも傷ついていた。」
涼葉は涙を流しながらつぶやくように言う。
「何度も言うけど、君を助けたのは俺の自己満足だ。自分と君を重ねて勝手に助けただけなんだよ。それに、君は俺に何もしていないって言ったけどさ、俺は君といる時間が楽しいし、君といることが僕にとっての救いだった。」
「でも、私といると君は傷ついてばっかりで、だから君と距離を置こうと思ったのに、そんなことを言われたら私の決心が揺らいじゃう。」
そう、呟くように顔を伏せながら言う。
「そんな決心しなくていいんだよ。俺は君といる時間が好きだし、君といることが僕にとっての救いだった。だからこれからも一緒にいてほしい。」
俺は自分の嘘偽りのない本心を伝えた。
「いいの?これからもたくさん迷惑かけるかもしれないし」
「全然良いよ。」
「私といるとまた傷ついてしまうかもしれないよ?」
とても不安そうに涼葉は聞いてくるが俺の答えはもちろん決まっていた。
「傷ついた分君と過ごしたらチャラだな!」
そういって俺がにっこりと笑うとそれにつられて涼葉も笑いだす。
いつもの俺たちだ。
「じゃあ、これからもたくさん迷惑をかけるかもしれないけどよろしくね?一君。」
「ああ、こちらこそ!」
そういって笑いあう。
「なあ、涼葉」
「何?一君。」
「救急車を呼んでもらってもいいかな?」
そういって俺の意識は闇に染まった
目が覚めると白い天井がみえた。
デジャブかと思ったがあきらかな違いがあった。
それは隣に涼葉がいることだ。
俺が目覚めたことに気づくと涼葉は安心したように話しかけてくる。
そのあと医者にすごく怒られて涼葉も一緒に謝ってくれた。
そして涼葉が帰り、俺は病室で一人になった。
その時俺の持っているスマホが震えた。
隆介からだ
「もしもし?一」
「どうした?隆介」
「目が覚めたらしいからな。それで、体のほうは大丈夫なのか?」
「ああ、傷が少し開いただけで大したことないってさ」
「そっちじゃない。あれだけ傷を負ったら少しは影響があるんじゃないか?」
「お見通しか。ああ。その通りだ。実は…………………………………………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます