第27話 太陽の狂気

 あの後何事もなくキャンプが終わりそして夏休みが終わった。




 今日は始業式だ。




「なあ、涼葉」




「なに?一君?」




「なんで今日はそんなに機嫌がいいんだ?」


 


 今日は涼葉の機嫌がとてもいいのだ。


 それはもう鼻歌を歌っているほどに…………




「何でもないよ。」




 そういう彼女の顔はとてもにこやかなものだった。




 学校について俺は席に着く。

  これからまただるい授業が始まると思うと少し気が重い。



 谷山太陽やほかの陽キャ達はいつものようにクラス内で話していた。




 だが、一つだけ不自然なことに気づいた。




 太陽たちの虐めがほとんどなくなっていたのだ。

 あんなにしつこく嫌がらせをしていたのにいきなりなくなるといささか不自然に感じる。



「気味が悪いな。」


 俺は素直にそう感じた。

 こういう時の直観は案外当たるものなので少し気にしておこう。



 そんな呑気にそんなことを考えていた。




……………………この日俺は知ることになる。俺の最大の判断ミスを……………………






「涼葉、俺、委員会あるから先に帰っててくれ。」




「いいよ、終わるまで校門で待ってるから~」




「わかった。早めに終わらせてくる。」




 そういって俺たちは別れた。

 思っていたよりもめんどくさい仕事で時間がかかってしまった。




 委員会を終わらせて校門に向かう。




「おーい涼葉~お待たせ~」




 そういって俺が校門に到着して声をかけるが涼葉の返事がない。

 帰っちゃったのかな?




 そんなことを考えているとスマホに連絡が来ていることに気づいた。


 そこには位置情報とただ一言、助けて、と。




 俺は今までに感じたことのないほどの焦燥感にさいなまれていた。

 何かが不味い

 俺は直感でそう感じた。

 今すぐにいかないと手遅れになる。

 何の根拠もないのにそれだけはわかった。



「助けに行かないと……………………」


 


 そう思ったころには走り出していた。




 こんなことをするのは一人しか思いつかない。




 谷山太陽だ。




 位置情報を確認するとそこは廃工場だった。

 人気がなく周りには住宅もないためほとんど人は近づかないだろう。



 そうして俺は廃工場へと入る。




 するとそこには………………………………




 縛られている涼葉がいた。




 俺は涼葉に駆け寄ろうとしたが、その行動がうかつだった。




 涼葉に駆け寄ろうとしたとき、後ろに大男が近づいているのに気づかなかったのだ。


 俺が気が付いたときにはすでに遅く


 俺は何か鈍器のようなもので殴られて気を失ってしまう。


 気を失う瞬間に涼葉の声が聞こえたような気がした。


 それからどれだけ気を失っていたかわからない。


「目が覚めたかぁ~えぇ?陰野一?」


 そんな耳障りな声で俺は眠りから覚めた。



「ああ、最悪な気分だよ。谷山太陽。」


 俺がそういうと本当にうれしそうな声で表情で言う。




「やっぱり来てくれた!そうだよなぁ~涼葉のメッセージアプリで送ったんだから来るよな~」


 そういう太陽の目には狂気が孕んでいるように見える。

 昔のこいつよりもいかれている。



「やっぱりお前の仕業だったか。何が目的だ?」


 俺は精一杯余裕な笑みを見せながらそう聞く

 だが、余裕なんてあるわけもなく手足を縛られているためろくに抵抗もできない。



「目的?そんなの簡単だよ~。俺のプライドを傷つけた女を徹底的につぶす。これだけだよ。」




「そんなことで涼葉を傷つけたのか?」




「そんなことだと?ふざけるなよ?この屑が!!」




 そういうと太陽は俺のことを殴りつけてくる。




 1発、2発、3発……………………


 何回も殴られる。

 口の中に傷がついて血が出てくる。



 俺が血の味を味わっていると突然太陽が殴る手を止める。




「どうした?もう殴らないのか?」




「ああ、お前は暴力では動じないようだからな。」




「おい、涼葉はどこにいる?」


 俺は気絶してから目が覚めて頭がぼんやりしていたため忘れていた。




「そこにいるじゃないか。」


 太陽がそういって俺の後ろに指をさす。




 そこには涼葉がいた。


 見たところ外傷はないが気を失っているようだ。




「いまから起こすよ。」


 そういうと太陽は指を鳴らす




 その途端に大男が二人出てくる。


 そうして涼葉の顔を殴る




 廃倉庫に鈍い打撃音が響き渡る。




「おいっ、涼葉に何してんだ!!」


 俺がそう叫ぶが、手足は縛られていて動かない。

 どれだけ動こうとしてもこの縄がちぎれることは無い。



「目が覚めたかい?涼葉?」


 そういう太陽の声は俺を起こした時と同じように嬉しそうな声で言う。




「あなたは、太陽君。どうしてこんなことを?」


 涼葉も俺と同じようなことを聞く


「君も同じことを聞くのか?まあいい。俺のプライドを傷つけたやつに復讐するためさ。」




 その話を聞き終わったとき涼葉は俺の存在に気が付いた。




「一君?どうして一君がここに?それになんでそんなに血まみれなの?」


 涼葉はなきそうな声でそう聞いてくる。




 俺が答えようとしたとき、大男に口をふさがれてしまう。




「なんでって、それは全部君のせいだよ?涼葉」


 太陽がそう言う。




「そしてこれからこいつが傷つくのも全部お前のせいなんだよ。」


 


 そうして、俺は大男に何度も殴られる。




 その途中に涼葉の嗚咽が聞こえる。


 泣かないでほしいと思ったが今の俺はあまりにも無力だ。


 何もできないという強い無力感が俺を襲う




 その後数十発殴られた後に大男は離れていく。




「なあ、どうだ?陰野一?お前は涼葉のせいでこんな目にあっている。涼葉が憎いと思わないのか?」




 太陽はそう俺に問い掛けてくる。




 涼葉泣いていた。




「涼葉が憎い?そんなわけないだろ。俺は涼葉が好きで関わっている。それにこうなったのは全てお前のせいだろうが!涼葉のせいにするなよ。」




「ほんとわかってないねぇ~」




「次は涼葉の番だ。」


 そういって太陽は指を鳴らすと大男が涼葉に向かって歩き出す。




 その時、急にサイレン音が鳴る。




「やっと来たか。」




「どういうことだ?陰野一?」


 そう言う太陽の声は苛立ちに満ちた声だった。

 計画が台無しになってイライラしているのだろう。



「俺がここに来る前に警察に連絡しておいたんだよ」




「クソっ」




 太陽がそう悪態をつくとポケットからナイフを取り出した。




「何をするつもりだ?」


 俺がそう聞くと太陽は笑いながら言う。




「この女だけはここで殺すんだよ!」


 そういって太陽はナイフを構えて涼葉に走り出した。




 俺の拘束は運よく解けていたがナイフを素手で止めるのには無理がありそうだった。


 だから俺は……

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