調整屋ラナンキュラスのライフマネジメント
等星シリス
第1話 増えすぎた大蟻を駆除せよ
近付いて来る。
石を叩くような足音が。
吹雪の夜を想起させる寒気が。
「っ、」
一呼吸を置く間もなく、それは目の前に現れた。
濃密な死の気配を漂わせる者。
黒衣を纏った骸骨。
──《調整屋》だ。
「な、何用だ!冥神の不興を買うようなことなど、妾は一切していないぞ!」
「寝ぼけたことを言うな女王蟻。冥神はお前の怠惰ぶりに大層呆れておられたぞ」
「怠惰、だと?」
思いがけない言葉に女王蟻は顔を顰める。
「穀潰しの増加を黙って見過ごす寛容さを冥神は持ち合わせていない」
「わ、妾の愛し子達を穀潰し呼ばわりとは何事か!」
「評価の訂正を望むのであれば成すべきことを成せ。さもなくば──」
「使いっ走りの骸骨風情が図に乗るな!」
女王の咆哮に応じた大蟻の群れが黒衣の骸骨に襲いかかろうとしたその刹那、先陣を切った一匹の触角が灰に変わり始める。
「止まれ我が愛し子達よ!」
「忠告はした、次は無い」
黒衣の骸骨が放つ威圧感に大蟻の群れは後込みする。
「……ええい!人間どもの鼻を明かすことぐらい造作もないわ!行くぞ我が愛し子達よ!」
冒険者ギルドがダンジョンに巣食う大蟻を討伐する依頼を出したのは女王蟻の前に黒衣の骸骨が現れた翌日。
名うての冒険者パーティーが女王蟻を倒したのは依頼が出てから僅か三日後のことだった。
「納品ありがとうございます。この量だと……報酬金額はこちらになります」
「うおすっげ、大蟻の毒液って案外高く売れるんだな」
「防腐剤を始め、様々な薬品の材料として重宝されていますからね」
「その割に人気が無いよね、蟻退治の依頼って」
「一山当てたい冒険者さんは大物狩りにをやりたがるので……」
「あー分かる、俺もドラゴンを倒して一攫千金……」
「どうしたんだよ急に黙り込んで」
「《調整屋》だ」
冒険者達がざわめき出す中、《調整屋》と呼ばれた黒衣の男は徐に口を開く。
「今回の調整は終わった。ギルドマスターにそう伝えてくれ」
「分かりました、お疲れ様です」
「では失礼する)
手短に報告を済ませた《調整屋》が去った後、冒険者の一人はぽかんとした顔で呟く。
「……何なんだよあいつ」
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