第5話 ゴーレムとの修行

 「あーーー!!!!どうしたら勝てるんだ!」


 初めて父親に稽古をつけてもらってから1週間が経ったが、いまだに勝つどころか剣先を当てる事すらできない。


 毎日魔力の特訓をしている。


 それも今まで以上に質を上げて。


 更にその訓練に上乗せして、剣の修行もしている。


 木に木刀を当てるだけだが、やはり相手が欲しい。動く相手が。

 (と言う事なんですよ。)


 俺は師匠に相談していた。師匠なら何かしら提案してくれるかもしれない。

 《なんだ、そんなことか。相手なら作ればいい。》


 つくる? 


 そんなことが出来るのか?


 《ちょっと体の主導権渡せ。》


 相手を作る、と意味のわからない事を言われてから「体をあけ渡せ」と言われたので少し混乱している。

 《早くしろ。相手が欲しいのだろう?》

 (はい。)


 俺は、師匠と人格の入れ替えが自由に出来るようになっていた。


 『やはりこの体は動きにくい。早くレベル上げろ。』

 (ごめんて、それで相手を作るって?)


 《ゴーレムだ。》


 ゴーレム? ゴーレムって何だ?


 《ゴーレムは戦うお人形とでも思っておけ。》


 なるほど。これなら相手ができる。


 でも、、

 (そんなもの作れるのか?)

 《あぁ、よく見とけ。》


 師匠はそう言うと、地面に手を当てた。

 その瞬間、土がみるみる変形して俺と同じくらいの大きさの人形が目の前に立っている。


 《これは土魔法【形成】だ。土を好きな形に変形できる。》


 おー! これでお人形の完成だ。


 ……でも、これ動かないじゃん。土の形を人と同じにしただけじゃないか。


 (師匠、動かないと意味がないよ。)

 《あぁ、今からやるから待っとけ!》


 師匠は人形に手をかざすと人形の指先、つま先、頭や心臓にまで細かく魔力を流していった。


 魔力を流された人形は【ゴーレム】となった。


 [ワタシハ、ゴーレム、アナタノ、アイテヲ、スル、カカッテコイ。]


 まるでAIみたいな話し方だな。


 (師匠、これがゴーレム?)

 《あぁ、今のお前よりすこーしだけ強い設定にしてある。

 今日からは四六時中これと戦え。》

 

 この日から、ゴーレム相手の修行が始まった。


 毎日毎日、幾度となく戦う。


 父さんは、父さんとの手合わせは一日一回と言っていたが、俺はゴーレムに勝つまで、父さんとの稽古はいらないと言った。


 目標がいくつもあると集中できなくなると思ったからだ。


 現時点の自分より少し強い設定なので、俺が強くなればなるほど、このゴーレムも強くなる。


 毎日、半日は庭で戦っているので疲れる。


 「おい、リューライ、ちょっといいか?」


 いつものようにゴーレムと戦っていると、横から父さんが話しかけてきた。


 ここ最近見守ってくれていた父さんだが、今日は母さんと隣り合って俺を見ている。

 「どうしたの? 父さん母さん?」

 俺がそう質問すると2人は答えた。


 「「どうやってゴーレムを作ったの?」」


 どうやってゴーレムを作っただと?


 「なんだぁーそんなことか。このゴーレムはししょ……」


 あ、2人とも師匠の存在知らないんだった!


 「土魔法【形成】で形を作ってぇ、魔力を込めたんだー」


 やばい、俺がこんな魔法使えるわけないだろ。


 そう思ったのだが、

 「凄いわ! これだけ高度なゴーレム、6歳の子供にできることじゃないわ! 流石私の子!」


 えっ!?


 「そうだな。このゴーレムも凄いし、最近の剣の動きも見てて心地が良いからな。」


 え、意外にもすんなり納得しているぞ。

 まぁ、こんな2人が大好きなのだけど。


 「冒険者になりたかったらいつでも言え!王都まで連れてってやるからな。あぁ、でも冒険者は10歳からしか出来ないな。それまで特訓だな。」


 両親は俺のやりたいようにやらせてくれる。


 俺はより一層訓練に精進するのだった。



 

 ーー「うぉーら!」

 俺は今日もゴーレムと戦っている。


 お互いに木刀を持って戦っているのだが、それらがぶつかり合うと手榴弾が爆発したような音が辺りに響き渡る。


 毎日ゴーレムと戦うようになってから、既に1ヶ月が経とうとしていた。


 だが、いまだ一勝も出来ない。

 当たり前と言えば当たり前だ。

 自分より強い設定にしてあるのだから。


 だが、師匠は《勝つ方法はある。》とだけ言う。

 その言葉を信じ、自分なりに色々考えあぐねながら戦う。


 毎日身体強化をかけながら戦っているので、魔力量や、魔力の質、密度、制御などの魔法使いに必要な力をどんどん身につけていった。


 だが、勝てない。


 何をしても勝てない。

 どうしたら勝てる?

 いつまで続けたら勝てる?

 身体強化はいつも限界までかけている。

 剣の振り方?

 いや、師匠に指導してもらいながら振っているからそれはないだろう。


 せめて相手の武器が無くなってくれたら、剣で受け止められることもないし、やり返される事も少なくなりそうなものだが。


 んっ、武器を無くす……?


 これ、もしかして

 可能なんじゃないか?


 だとしたら、無くすにはどうすればいい?

 アイテムボックスに放り込む?


 いや、そんな危なすぎることはまだ出来ない。

 他に無くす方法…………

 壊せばいい、のか?

 壊すにはどうすればいい?

 思いっきり武器をぶつける?

 いや、耐久力は同じだから無駄だ。

 じゃあ俺の武器の耐久力を上げればいいのか?


 どうすれば…………

 

 【無属性魔法はなんでもできる】


 師匠の言葉だ。


 そうだ。自分の武器に強化エンチャントを掛ければいいんだ。

 いわゆる武器の強化だ。


 昔アニメで見た、自分もしくは仲間にバフをかけて強くなる映像を思い出し、想像した。

 仲間を剣と置き換えて……

 俺がイメージしていると、

 

 バチっ、ビリビリ、ヴォーン……


 俺が握っているのはただの木刀なのにも関わらず、凄まじい覇気を纏って、周りの空気を揺るがしているのを感じ取った。


 初めての感覚だ!

 これなら勝てる!


 今まで幾度となく挑んできた高い壁、ゴーレムに向き合った。

 「今までとは違うぞ!ゴーレム!」

 [カカッテコイ、ナンド、ヤッテモ、オナジダ]

 俺は今までゴーレムの首を狙って剣を振っていたが、今日は相手の武器を目掛けて攻撃を仕掛けた。

 もちろん武器に強化魔法を付与して。


 バキッ!!!!


 鈍い音がした。


 同時に、ゴーレムの胴体は真っ二つに切断されていた。


 「えっ!? あれっ?」


 《やっと勝てたか。》

 (俺、剣しか切ってないんですけど、なんでゴーレムまで斬れてるんですか?)


 俺は多分剣を斬った。

 でも、なぜか全くがなかった。

 確かに当たったはずなのに、きっと空振りしたのだと、心が折れそうになる。

 しかし、剣が折れた音がしたし、斬ったのをこの目で見ている。


 《お前の武器強化が強すぎたんだ。

 だから剣だけを斬った感覚でも実際はゴーレムまで斬れた。

 斬った感覚がなくても完全に真っ二つになっている。

 流石にここまで武器強化出来るとは思ってなかったぞ。》


 俺、そんなにイメージできてたのか?

 確かにアニメの中のキャラたちもめちゃくちゃ強くなってたけど。


 勝てた。


 勝てたんだ!

 やっとやっと勝てたんだ!


 ゴーレムに勝てるまでは、とおあずけにしていた、あのお願いを思い出す。


 「父さん、手合わせ、お願いします!」


 それは父へのリベンジマッチだ。


 「いい表情だ。早速やるか。」

 以前やった時は、手も足も出なかった。

 今も勝てるとは思っていない。

 ただ、少しでも近づけたらと思う。


 そして、父親対息子の勝負が始まった。


 「身体強化、武器強化、付与。」


 俺がそう唱えると俺の周りにはヒリヒリとした空気がまとわりつく。

 「よし、来い、リューライ!」

 父はドンッ、と構えてこちらの様子を伺っている。


 俺は今回、師匠の指示なしで1人で動いている。

 ゴーレムとの戦いの中で、師匠は勇者の剣の型を教えてくれた。

 型は全部で8個ある。


 一の型、閃光の雷せんこうのかみなり

 二の型、赫狼の豪炎かくろうのごうえん

 三の型、蒼水の神水あおみずのしんすい

 四の型、橙楼の土城だいこうろうのどじょう

 五の型、翡翠の木槍ひすいのもっそう

 六の型、真珠の双蘭しんじゅのそうらん

 七の型、黝緇の覆拳こうしのふくけん

 八の型、幻姫の伊奘冉げんきのいざなみ

 

 教えてもらった。やり方も。

 それでも俺は何一つとして出来なかった。


 あの勇者サンドラと同じ型なんてすぐ使えるわけなんてないと思っている。

 それに、この型を使うには勇者術という特別な力が必要らしい。


 なんと俺の体には、その勇者術に対応できる核が存在する、と師匠が教えてくれた。

 この核は、師匠と俺にしか無いらしい。

 理由はわからない。

 この型は後々までのお楽しみに取っておこうと思う。


 それよりも、今できる技で、父さんを倒す!


 俺は父さんに斬りかかった。

 

 キィーーーーン!!

 

 剣と剣がぶつかり合う。


 今、俺たちは木刀で戦っているが本当の剣で戦っているかのような耳に響く音が辺りの空気を揺らす。

 「……」

 武器に強化魔法を付与しているのにも関わらず父さんは受け止めた。


 これが剣士としての才能ってやつか。


 すかさず俺はカウンターをくらわないように距離をおいた。


 「いい判断だ。」

 「えへ! 父さんも気を抜かないほうがいいよ!」


 俺の言葉に父さんはキョトンとしていた、が、

 「いてっ!」

 俺はアイテムボックスを使って父さんに攻撃をしかけた。


 アイテムボックスの中のものは自由に操れる。

 アイテムボックス内から外に物を飛ばすこともできる。


 俺は20センチほどもある石をアイテムボックスにいくつも溜め込んでいたので、それを思い切り父さん目掛けて飛ばしている。


 「なんだ、これ! いてっ! 魔法か?」

 「こんな魔法、見たことないわ!」


 戦いを見守っていた母さんも驚いた表情をしている。

 それより、20センチもある石が当たったら、普通は大惨事になりかねない。

 「いてっ!」で済むなんて、流石は元剣士だ。

 「隙あり!」


 石への防御に専念しようとしていた父さんに隙が生まれたので、すかさず斬りかかった……のだが、

 「一の剣、駿切しゅんせつ!」


 父さんはそう口にすると目の前から消えた。


 「まさか、お前相手に剣聖の技を使うことになるとはな。」

 剣聖? そんなものがいるのか?

 《あれは、厄介だな。剣を極めた者、いわゆる剣聖と呼ばれる者しか使えない技だ。やはり、お前の父親は剣聖だったのか。》


 はっ? 父さんが剣聖?


 「よおーっし! 俺も負けねぇぞ! 一の剣、駿切!」

 「!?」


 できた!?


 できている!



 この時、俺は剣聖の技を完全にコピーしていた。

 

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