下着屋店員×教育番組のお姉さん【社会人百合】

茶葉まこと

第1話 下着付け忘れた!

「あ、しまった。」


 下着、要するにブラジャーを付け忘れた。胸のあたりが少しスースーする。今から家に帰る時間は…ない。既に電車に乗ってしまった。なんで電車に乗るまで気付かなかったのよ私。

そりゃ私はいわゆる貧乳ですし?ブラをするには至らないって判断されてもおかしくないくらいそりゃもう小さい小さいささやかな胸ですが。


とりあえず、駅からテレビ局までの間に下着屋あったかなあ。鞄からスマホを取り出して検索をかける。うわ、飲食店ばっかりじゃん。そりゃそうか。オフィス街だもんなあ……。いや、これだけたくさんお店があるんだから一店舗くらいは!


スクロールをしていくと、一つだけ何とか下着屋を発見した。でもこの店、聞いたことないなあ…。チェーン店ではなさそうだ。お店のホームページは割と普通の可愛らしい下着屋みたいだけど。いいや、この際どんな店でも構わない。とりあえずその場しのぎでも私のつつましやかな胸がカバー出来ればそれでオッケーだ。場所もテレビ局からそう遠くない。よし、サッと行って買っていこう。


スマホを鞄にしまい込むと、車内は次の停車駅のアナウンスを始めた。よし、扉が開いたらダッシュで行こう。


プシューと電車の扉が開くと同時に私はさっきスマホで見た地図を頼りに下着屋へと急いだ。



「ここだ。」


 駅からもテレビ局からも割と近い位置にあるそのお店。見た目は普通に可愛い下着屋だった。ドアを開ければ、カランコロンと音が鳴る。店の中はオルゴールが流れていた。何ていうか、すごくメルヘン空間だ。


「いらっしゃいませ。」


 音に気付いて声をかけてくれたのは、ショートカットで、スラッとした長身でモデルみたいに整った顔立ちの綺麗なイケメン……いや、女の人だよね?長い睫毛、白いシャツに黒のパンツスタイル。そしてなんだかいい香りがした。

 彼女は薄い綺麗な唇で弧を描いた。よく見れば胸もあるし、声の高さからしてもやっぱり女の人だろう。


「どうかされましたか?」


 しまった。ちょっとジロジロ見過ぎた。


「いえ、すみません。」


 ペコペコと頭を下げる私。そうだ、今はブラジャーを買わねば。すぐに。さっさと買ってテレビ局に入らないと遅刻をしてしまう。手っ取り早く店員さんに言ってサイズを出して貰った方が早いはずだ。


「あの、A65のブラありますか。」

「ええ、ありますよ。ノンワイヤー等の希望はありますか?」

「何でも良いんです!ちょっと急いでいて!」

「そうですか。少々お待ちください。」


 彼女は引き出しから可愛いブラジャーを何個か出しながら口を開いた。


「そういえば、お姉さんってテレビに出てる方ですよね。教育番組の。違いました?」

「えっ。」

「ああ、その顔は図星ですね。これから収録ですか?」

「そ…そうです。」


 バレてた。この人教育番組見てるの!?子供向け番組だよ!?いや、でももしかしたら若く見えるけど、既に結婚していてお子さんが見ているという可能性もあるよね。

 彼女はテーブルの上に五種類くらいのブラを並べてくれた。


「お好きな物を選んでください。お姉さんに似合いそうなのを選んだつもりです。」


 ふふっと笑う彼女。その顔がカッコイイって、そんなこと考えている場合じゃない。ブラだ、ブラに集中しろ私。刻々と出勤時間は迫っているんだ。


じっと並べられた下着を見る。確かにどれも私の好みだ…。特にこの淡い藤色のささやかなレースが付いたのなんて好みど真ん中だ。


「これが良いですか?確かにこの中なら私もこれが一番お姉さんに似合うと思います。」


 私の表情に気付いたのか、彼女は藤色のブラをとって私に当ててくれた。


「うん、やっぱり良く似合う。………あ。」

「な、なんでしょう?」


 彼女は私をじっと見つめた。


「いや、教育番組の歌がとっても上手なお姉さんがノーブラ通勤とは少し驚いたくらいで。でもそういうのも悪くないと思いますよ。」


 げっ、ノーブラなことバレた!このタイミングで!恥ずかしさで顔が熱い。もう穴があるなら入りたい。


「ちっ違います!」

「でも今ブラつけてませんよね?」

「これはそのっ。寝坊して慌てて着替えたから忘れていただけで。」

「へえ。」


 彼女はニヤっと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「寝坊ってことは彼氏ですか?ああすみません、野暮な質問でしたね。」

「そんなのいませんから!」

「じゃあ、立候補しても良いですか?」

「はい?何言ってるんですか?」

「ふふっ。テレビでも可愛い人だなって思ってましたけど、実物はもっと可愛いですね。私好みです。」

「なっ。」

「下着はつけていかれますよね?更衣室にご案内しますね。」


 私は彼女の笑顔に圧されるままに更衣室で下着をつける。うん、サイズもピッタリだし、何より着心地がいい。心はざわざわして落ち着きがないけれど。


「着られましたか?」

「はい。」


 シャーっと音をたてて更衣室のカーテンが少しだけ開けられる。


「うん、お似合いですね。サイズも問題なさそうですね。」

「ありがとうございます。」


 何だろう。目が合わせられない。ここはさっさと会計を済ませて店を出よう。これから収録だ。小さな子どもたちも待っているんだ。


「あのっ、これ買います!で、付けたまま行くので、お会計よろしくお願いします!」


 私はそのまま急いで服を着て、会計をした。彼女は何が面白いのか私を見てはクスクスと笑っている。


「じゃあ、私はこれで。ありがとうございました!」

「ああ、お姉さん。」

「何ですか!」

「収録頑張ってくださいね。またのご来店をお待ちしています。」


 カランコロンと音を立てて店のドアが開く。


「何なのよもうっ。」


 彼氏候補って。だってあの人は女の人で。あーもう、頭切り替えよう!収録、収録に集中しないと。ほら、時間だって迫ってるんだからまずはテレビ局!収録!


 私は足早にテレビ局へと向かった。


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