ひとり相撲
@leo_jungletaitei
第1話
「お前、いつになったら養豚場に出荷されるの?」
鳥とか、豚とか、動物由来のインフルエンザの話題をよくテレビで見かけた頃だったと思う。
桜が散りきって、風の向きも温度も少しずつ変わり始めていた。このくらいの温度がちょうどいいな、席替えの時は窓際がいいな。今日の6時間目には、クラス替え後初めての席替えがある。自分がくじを引く番だ。まだ窓際の席が2つ残っている。
えい、と引き当てた場所には、あまり見覚えのない名前に四方を囲まれた席だった。
かろうじて、青木くんは唯一顔と名前が一致している。ご近所さんでサッカークラブの高橋くんと一緒に帰っていたとき、後ろにいたんだよな。本当は一緒に帰りたくなかったんだけど、高橋くんについてきた背の高いやつだ。
席替えをして隣になった青木くんは、ほっぺたに綺麗なシワを刻みながら、はっきりと言った。
「え?」何が何だかわからず、僕はふにゃふにゃした反応をした。
「だからさ、養豚場だよ。お前ってほんと豚みたいだからさ。」
席替え後に新しくなった班のメンバーは、口を開けずに笑っている。
「ようとんじょう」という意味がよくわからなかった。その響きだけが耳に残った。ただ、僕が「豚みたい」と言われたことはわかった。結果、僕は苦笑いしながら下を見て、黙り込んでしまった。6時間目だったから、席替えが終わった後はすぐに下校時間になって、なんだかぼんやりと暗いまま一人で帰った。
坂の上にある家までは歩いて20分ほど。1年生の頃は30分かかったけど、今では普通に歩いて20分。走れば10分で着く。今日はなんだか走りたかった。10秒くらい全力で走って、すぐにゼエゼエくるから、息が整うまで歩く。また走る。体の真ん中が上下左右に自由に揺れる。さっきより早く苦しくなってくる。また歩く。
その繰り返し。
家に着くとおばあちゃんがいつものマッサージチェアに深く座って、テレビを見ていた。夕方のテレビは好きだ。美味しそうなお店の特集のおかげで、晩ごはんが数倍美味しく感じるからだ。本当はそのお店に行ってみたいけど、特集されるのは隣の東京の店ばかり。
けど、今日は走って帰ってきたからか、まだグルメの話題ではなく、インフルエンザの症状とか、どう防げばいいのかとかをわかりやすく一枚のパネルで司会の大人が説明している。そのなかに、マザー牧場の牛が飼われている建物みたいな場所で、ぎゅうぎゅうに詰められてエサを食べている豚の写真があった。
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