いすとせっけん、りさいくる。

西奈 りゆ

いっけんのおみせがありました。

その女の子は、もうずっとそこにすわっていました。

何年も、たったでしょうか。女の子はとしをとらなかったので、よくわかりませんでした。


自分がこうなったりゆうを、女の子はしりませんでした。

いつもねむたくて、ふと目をさますと、いつもおなじところで目がさめるのでした。


それは、「イス」ではなく、「ソファー」というのだと、女の子はしっていました。

そのくらいのことはしっていて当たり前なのか、そうでないのかは、もはやたしかめようがないのですが。


それは、みどりいろの大きなソファーでした。

はるにさくらがさいたあと、さくらの花にかわってはえてくるはっぱのいろに、それはにていました。

そのソファーのヨコのはばは、女の子がねころんでもまだたりないくらいでした。すわると、くびからうえがせもたれからぴょこんとでる、そんな大きさでした。


どんなすわりごこちなのか、もたれかかったらどんなきもちになるか、女の子には、わかるようでわかりません。

ただ、よいともわるいとも思わないで、おきているあいだはじっとそこにすわっていました。


ソファーは、たかいところにおいてありました。おねだんのことではありません。てんじょうのことです。

ソファーは、タンスのうえにおいてあり、だから女の子がすわると、あたまのすぐ上がてんじょうなのでした。


「りさいくるしょっぷ」というなまえの、そこはりさいくるしょっぷでした。

小さいおうちがならんだところから少しはなれたところに、そうこがそのままおみせになったようなおみせが、たっていました。

なかはせまくてくらくて、でんきゅうがやくにたっていません。

かびん、つぼ、おもちゃ、しょっき、ひきでもの、かでん、そうじようぐ、だいどころようひん・・・。多いじゅんにならべていくと、そんなかんじがしました。


おみせをやっているのは、からだの大きなおにいさんひとりでした。

おにいさんは、ひとりです。大きなものも小さなものも、ひとりであつかわなくてはいけませんでした。ほんとうは、おにいさんはからだがほそめのひとだったのですが、このおしごとをはじめてから、いつのまにかそうなっていたのでした。


おにいさんは、ことわることがにがてでした。

なので、いつのまにかおみせには、よくわからないぞうやとらがたっぷりかかれたおおげさなかびんや、どこにおいたらいいのかおにいさんもわからないような大きいつぼ、なんねんもまえにはやったおもちゃ、よそですうひゃくえんでにたものがみつかるタオルセット、よこをとおりすぎてもきおくにのこらないじみなおさらたちなど、ぱっとしない、なんだかうれるような気がしないものばかりがふえていきました。


そんなおみせでめだつものは、ふたつだけでした。

ひとつは、女の子がねむって、おきているあいだはすわっている、みどりのソファーです。もうひとつは、せっけんでした。


みどりのソファーは、おにいさんがはんとしくらいまえに、おひっこしをするふうふからかいとったものでした。あしがいっぽんぐらぐらしていましたが、おにいさんはこれはものがいいので、すぐうれるんじゃないかと、うれしくおもっていました。

おにいさんがつけたおねだんは、9000円でした。

われるものや小さいものが多いので、タンスのうえにくろうしておきました。

だから女の子は、いつもそこにいるのです。


せっけんは、かぞえきれないくらいありました。

いまのひとはしらないメーカーさんの、こほうそうの、こけいせっけんでした。

かぞえきれないくらいのせっけんは、いちねんくらいまえに知りあいからかいとったものでした。ほんとうはほしくなかったのに、「どんな値段でもいいから」と、ごういんにかわされたものでした(ほんとうに、ただどうぜんのねだんにしてやりました)。「せんぱい」だから、いやといえなかったようでした。


かぞえきれないほどのせっけんは、いっこ100円だったのが、80円になり、60円になり、おととい50円になりました。

おみせのせっけんはかぞえきれないくらいあるのに、うれたせっけんはほんとうにかぞえるほどでした。


女の子は「けいえい」のことはよくわかりませんでしたが、たまにやってくるおにいさんのおともだちとはなすおにいさんのかおが、「けいえい」のことをはなすときにくらいかおになるのをみていましたから、たぶんあんまりよくないことがおこっているんだろうなとかんじて、なんだかかわいそうなような、しんぱいなような、そんなきがしていました。

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