グッドモーニング・ハーヴェスト! 2
つくも せんぺい
前夜 ズーズーのノート
ピッカは必要ないって言うけれど、出発前にやっぱり書こうと思う。
幸い、仮眠をとってから出発することにしたから、時間はある。
ピッカのお父さんが追いついた時に説明するのはボクだろうから、書き記しておかないと困るのは自分だもの。
前回のアサの実の街から、荷車でだいたい丸一日、ピッカが言うには朝の花を咲かせるために次の街へやってきた。
寒い。街の名前は花の街らしいけど、看板も白く凍っていて読めないし、草も花もない。
前の街は街灯が多くて明るかったけど、今度着いた街はそれよりも暗くて、なにより本当に寒い。最近は雪も降ってきているみたいで、積もり始めてるって聞いた。
家々の灯りも、暖炉の火を頼りにしていると言っていて、雪が積もって薪が届かなくなったら大変だと、みんな不安そうだ。
なんだか怖い声が聞こえるようにもなったから、出歩けなくなったとも言っていた。
ボクの目にはどう見ても深刻で、どう見ても前の街よりも状況が悪いのに、ピッカは元気だ。
「アタシが何とかしてあげるわ!」
だって。
まぁ、すぐに鼻水が出るほど寒がったから、マフラーとジャケットを出してあげた。
やっぱり、道具が補充できてないのが不安。まだあんまり使ってないとは思うんだけど、準備はとても大切だとボクは思う。
街の人が、貴重なはずのマッチと着火剤をくれた。
こんなまだ子どものボク達を頼ってくれるんだ。頑張ってピッカをサポートしなくちゃ!
と、思ったんだけど、他の
でも、今回のアサの収穫は、アサの花を咲かせるだけじゃダメだ。
家で一人で泣いていたあの子、ポケットくんのためにお母さんを必ず探してあげないと。
もしかしたら
きっと大丈夫。そう言ってギュッとピッカはポケットくんを抱きしめていた。そういう優しさは、きっとお母さん譲りなんだろうと思う。お父さん怖いし。
でもなんでその後にズーズーもって、ボクも呼んで二人で抱きしめるように言ったんだろう? ポケットくんも驚いてたよ。
……眠かったのかな? このままお父さんには言えないから、下に箇条書きにすることにする。
絶対成功させなきゃ。
ボクがピッカを守るんだ。
◇
お父さんに伝えること
・ 街に雪が降りだして、凍え始めている
・
・ 別の収穫者、‟豪腕”のルドルフが来ているらしい 〈重要!〉
・ ポケットくんのお母さんを探す 〈もっと重要!〉
◇
ズーズーが机に突っ伏して寝ていた。
ランタンの灯りが彼の顔を照らしている。
もう! 出発前にしっかり休もうって話したのに、聞いてなかったのかしら?
アタシはもうあんまり時間もないから、起こしてベッドに移動させるよりはと、ブランケットだけ背中に掛けようとする。
その時、開きっぱなしのノートが目に入った。パパが合流した時に伝えることをメモしてくれていたみたい。やらなくて良いって言ったのにはと思うけど、やっぱりちゃんとしてくれる彼の性格が信頼もできる。
「でも、閉じて寝てよね」
小声でぼやく。覗く趣味はないけれど、アタシは
ポケットに対するハグの話が書いてあった。
彼は物心ついた時にはお父さんが居なくて、アタシだけじゃなくてズーズーがしてあげたら安心できるかもって思っただけなんだけど。
あの時、アタシの背に回されたズーズーの大きい手のひらの感触が思い出されて、なんだか今になって恥ずかしくなる。
でも、ポケットの涙を思い出すと、そのことよりもこれからの収穫に気が引き締まる。アタシがいままでパパに付いていて見てきた収穫前の街に比べても、状況が悪い気がする。ズーズーには言えない、きっと不安になるから。
先に行くとアタシが決めた。それに、
「二人なら、きっとできるわ」
そう思えるのは、今でも変わらないから。
アサの花が咲けば、またポケットが安心して眠れる夜になる。
アタシは窓の外に広がる夜を見つめた。
雪が降っていて、星空は見えない。
外を見てるよりも、ズーズーの寝顔の方がやる気になれるわね。そう理由をつけ、アタシは予定の時間まで彼の寝顔を見ていた。
「さぁ! 朝を咲かせに行きましょう!」
ずっと見ていられるけど、目覚ましは元気じゃないとね!
アタシは彼に掛けたブランケットを勢い良く剥ぎ、大きな声で呼びかけた。
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