草花少女(そうかしょうじょ)-双百合の誓い-

神音色花

一輪「夢の中で」

風に揺れる白銀のカーテン、晴れ渡る空の下太陽の光で彼女の銀髪が時折黄金色に輝く。

彼女の膝に頭を預け私は影が落ちる彼女の顔を見上げることしか出来ない。

優しく頭を、髪を、唇を撫でる指先に触れた所が甘い感覚を帯びる。

彼女の名前を呼ぼうと口を開ける度に液体が口から溢れる。それは彼女の指を赤く塗り変えその手は私の胸に突き刺さった短刀を握りしめた。


"これは夢だ"


すぐさま暗転の後、クロユリは目が覚めた。

少し前屈みになり側に置いている太刀を強く握りしめていた。姿勢を正して座っていた椅子にもう一度深く座り込み深呼吸をした。

カタンと太刀を落とした音が見慣れた殺風景な部屋に響く。ぼんやりと虚空を見つめていいると静かだった外から活動時間になった草花達の活気ある鈴の音のような声が聞こえ始める。


今日は、いつもより賑やかな音が聞こえる。今日はお祭り「春を告げる女王華」が始まる。



「春を告げる女王華」はその名前の通り聖国の女王華 現女王ブルーローズ が大陸に春を告げる大規模なお祭りです。

聖国の中心に根付く世界樹に建てた神殿

今回は女王ブルーローズが即位して20周目の開催で特に"20周目"は特別な催しとなっております。


理由は二つあり、

一つ目は、「新女王の剪定式の宣言」

20周目を迎えた女王は「冬を告げる女王祭」と同時に散るため、神託によって産まれた次期女王候補を国民に知らせます。

神託によって人数がまちまちですが、この一年を女王の側で帝王学等を学んでいきます。


二つ目は、「旧女王の追悼式」

「冬を告げる女王祭」までに女王の元には弔いの準備と新女王の引き継ぎ、友達や家臣達、来訪者との会談等を祭りまでに済ませていきます。

この約一年、女王は女王という重荷を減らし客観的に国の未来を見据えるために政治の一歩後ろを歩いていきます。


この理由から20周目は一際、三都市から花が行き交い国が活気づく一年になります。

聖騎士団はこの一年取り締まりが強化され治安警備等に多くの少女達が駆り出されます。

この度、その剣の力量を認められて聖騎士団の上官になったクロユリには警備地区と人員が割り当てられます。

ですがこの決定にクロユリは不満を持っていました。現女王であるブルーローズと同い年であり彼女もまた最後の一年を過ごします。

なにより配属されていた騎士団の隊長部隊には同い年の恋人カサブランカ・リリウムがいるのが気掛かりで仕方がないからです。


洗面台の冷たい湧水で顔面を濡らして気持ちを切り替えようとしていたクロユリは鏡に映る自分を睨みつけています。


しばらく鏡を覗きこんでいたクロユリはこんこんこんと玄関からノックが聞こえたので足早に玄関に向かいました。



造りが古く重く軋む音をたてながら扉を開けると世界で愛しい私の大切な朝露が立っていた。


「おはようございます。カサブランカ」


「おはよう、クロユリ。昨夜はよく眠れたかしら?」


「…ええ、よく眠れましたよ。」

あのまま目覚めなければよかったと思う位には、、、


貴女は知らないだろう伏せた睫毛から覗く蜂蜜色の甘い瞳が飾る暖かい微笑みを。熟れた林檎と同じ色の唇、緩くたなびく絹糸のように艶のある白髪、陶器のような白い肌、真のある細い四肢、小柄な貴女はこんなにも私の胸を締め付け、愛しいと想わせる。


この一年、私の配属と貴女の配属ですれ違う日々が始まると思うとまた胸が締め付けられるような感覚に陥る。


今、19年一緒だったこの道を歩くのも今日で終わる。

嗚呼、貴女がとても遠くに感じる。



爽やかな風が頬を撫でる朝を告げる小鳥達がベッドに腰かけている私の肩にとまる。

彼らの世代交代を見続け19年の付き合いになる。次は私の番だと、窓の外でいつもより一層賑わう国民の活気を感じ小鳥を手に乗せる。


「私の名の元に、次のブルーローズが貴方達の子孫と歩みますように…」


そう願いながら窓辺まで歩みを進め、小鳥達を空に送り出す。大樹の茂みを抜け空に向かい飛び出していく鳥を見て。つい、感傷に浸る。


背後の出入口からノックの音が部屋に響く。「入って」と声をかけると見慣れた花達が一礼をした後、湯あみと着替えの準備に取りかかる。最後に秘書のダリア・ラベラミディオと専属護衛騎士のノコギリソウ・アキレアが部屋に入り扉を閉める。


全員を見渡し「みんなに大樹の加護を」と朝の挨拶を許す。


「「聖国の大輪ブルーローズ様、朝露の時をお供します。」」


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草花少女(そうかしょうじょ)-双百合の誓い- 神音色花 @KamineIr0ha

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