清楚姫は希う 〜眞尋side〜 ②

 それからというもの、私は篠村さんを目で追うようになりました。

 

 彼はサッカー部ということで、いつも放課後、グラウンドで練習をしています。

 私は放課後教室に残り、外の景色を眺めて黄昏るフリをしながら、彼の姿を見ていたりしました。


 今考えると、ちょっと怖いですね……


 しかし、それ以上のことはありませんでした。

 私は何度も、彼と会ったゲーセンに足を運んでは、また会えないかと心待ちにしていましたが、結局会うことはありませんでした。

 

 いつも練習していますもんね。お忙しいのでしょう。


 そう考えると、あの出逢いはやっぱり運命……!

 なんて、恥ずかしいことを考えてしまいます。


 自分で言うのもおかしな話ですが、私はこれまで、かなりモテていました。

 告白も数えきれないほどされてきましたし、そこは自信を持っています。


 ですが、お付き合いをしたことはありませんでした。

 恥ずかしながら、恋というものがわからなかったのです。


 それに、私に告白してくる人は皆、清楚姫を見ています。姫野眞尋ではないのです。


 いつか、本当の私を好きになってくれる人が現れて、その人を好きになりたい。

 なんて少女漫画みたいな展開を密かに期待していたり。


 そんな時に出逢ったのが彼でした。

 ありのままの私を見てくれるし、普通の態度で接してくれる。


 そんな彼にいつしか惹かれていました。


 そう自覚してからは、見える世界が変わったように思います。


 お友達と楽しそうにしている篠村さん。

 必死にボールを追いかけている篠村さん。

 授業中に睡魔と戦っている篠村さん。

 

 色々な彼が、愛おしく思えます。


 しかし、臆病な私は何もできません。

 

 ただ、遠くから眺めているだけ。


 ただ、想いを大きくするだけ。


 あぁ、自分が嫌になります。


 結局私は、何もできないまま高校を卒業しました。

 

 そして進学した女子大では、経済学を学びました。

 

 女子大ということもあり、毎週のようにされていた告白からも解放されて、大学生活を楽しんではいましたが、後悔は消えませんでした。


 そして就活で、先生からの勧めでとあるイベント制作会社を受けた時です。

 

 無事内定が決まり、入社手続きをしていた時、会社の人から告げられた一言に、私は心を躍らせました。


「うちに、姫野さんと同じ高校の子が働いているんだ。篠村君って知ってる?」


 これは運命です。誰がなんと言おうと。

 私が知る限り、あの高校の同級生に篠村という苗字は1人しかいません。

 

 もう後悔はしたくありません。


「ここでは貴方が先輩ですね。」


 こんなチャンス二度とないでしょう。絶対に逃しません。


 待っててくださいね。篠村さん。

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