清楚姫とお昼ご飯 ②

「……うちら、もん」

 

 ニヤリと不敵に笑って、矢野はそう言った。


「え、ええええ!?本当なんですか?篠村さん!」


「い、いや!全く何のことやらさっぱりだよ!」


 両目を見開いて驚く姫野。そりゃそうだろ。俺だって驚いている。


 頼んだとんかつが席に運ばれてきた。その時、店員さんに声が大きいと注意されてしまった。

 ちなみに一応言っておくが、そんな事実は全く持ってない。なんかのイタズラか……?


「もー、しのむーったら。照れないでいいから〜」


「いやいや、照れるも何も、俺たち付き合ってないだろ!?」


「え〜つきあってるでしょ?最近いつも夜通話してるし、しのむー意外と激しいから、いっつも押し負けちゃうんだよね〜」


「え、え、え……そんな関係だったなんて……」


 この世の終わりかのような表情でオロオロとする姫野。

 て言うか、そんなことしてないだろ。何言ってんだこいつ……


「あ」


 わかった。今全てが繋がった。


「お前、ウイレの話してるか?」


 ウインナー・レジェンド。略してウイレ。

 好きなウインナーを選んで、それをぶつけ合って、いや突き合って戦うスマホゲームだ。

 

 最近、有名なVtuberがやっているのを見たので始めてみたら、これが意外と面白くてハマってしまった。

 そして、そのゲームを矢野に教えたら矢野もハマり、最近は夜な夜な通話しながら対戦している。


「にひひ、バレちゃった?」


「ウ、ウイレ……?」


「あぁ、最近俺と矢野がハマってるゲームだ。ウインナーで相手を突き合って戦うゲームなんだ」


「じゃ、じゃあ、夜に通話していると言うのは……?」


「対戦しながらボイチャしてるだけだな」


「激しいと言うのは……」


「だってしのむー、ガンガン攻めてきて、すっごい激しいプレイスタイルなんだもん」


「そういうゲームだからな」


 ややこしすぎる。これじゃあ姫野が誤解しても仕方ない。

 ちらっと姫野を見てみると、顔を真っ赤にして下を向いている。清楚姫には少し刺激が強かったか。


「冗談だよ冗談!ごめんねまひろん。ていうかさ、とんかつ冷めちゃうよ!早く食べよ!」

 

 元凶が何を言っている。て言うかもっとちゃんと姫野に謝れ。


 しかしまぁ、冷めたら勿体無いのは事実だし、時間も限られてるので俺たちはさっさと食べることにした。



 なんだかんだありながらも、美味しいとんかつを堪能した俺たちは、時間もあるのでオフィスに戻ろうということになった。


「ここは俺が出すから、先に外に出ててくれ」


「え、それは申し訳ないですよ。それにちょっとお高いですし」


「いやいや、それわかってて連れてきたのは俺だからな。入社祝いとしてここは払わせて」


「そうだよまひろん。しのむーが奢ってくれるなんて珍しいんだよ?ここはお言葉に甘えておこうよ」


 お前は払えよ?なんでお前も奢ってもらえる前提なんだ。しかも謎に上から目線で。腹立つな。

 矢野にそう言われた姫野は申し訳なさそうにしながら「ありがとうございます。ではご馳走になります」と言って、矢野に連れられて店の外へ行った。少し出費がかさんだが、姫野の珍しい一面も見れたし良しとしよう。

 

 そう思った俺は、コップに入ったお冷を飲み干しレジへと向かった。



 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 しのむーが奢ってくれると言うので、うちはまひろんを連れて店の外へ。

 申し訳なさそうに小さくなっているまひろん。ただでさえ小さいのに、かわいいなぁ。


「さっきは驚かせてごめんね、まひろん」


 うちが謝ると、まひろんは少し頬を膨らませていた。


「本当ですよ一花さん!とても驚いたんですから。それより、篠村さんとは本当に何もないんですか?」


「ただの同期ってだけだよ〜。まあ唯一の同期ってのもあるけど、本当にそれだけだよ」


 そういうとまひろんは、心底ホッとしたような表情をしている。

 

 おぉ?この反応は?まぁ薄々気づいてはいたけど。

 っていうか、しのむーにオフィス案内されている時のまひろん、顔蕩とろけてたし。


 隠せてると思ってるのが可愛いね、まひろん。

 気づかないしのむーも大概やばいけどね。


 ふと店内を覗くと、しのむーがレジの前に立っているのが見えた。もうすぐ来るだろう。

 

 あ、いいこと思いついた。慌てるまひろん可愛いから、もうちょっとだけイジワルしちゃおうかな。

 

 そう思った私は、横でホワホワしているまひろんに声をかける。


「安心してまひろん。うちは盗らないから。それより応援してるからね?」


 するとまひろんは、再び顔を真っ赤にさせて慌て始める。


「な、な、なぜそれを!?」


 なぜって……あんなに分かりやすいのに自覚ないんだなぁ。


「おまたせ、って何姫野をいじめてるんだよ矢野」


「やだなぁしのむー、いじめてなんていないよ。楽しくお話ししてただけだよね、まひろん?」


「そ、そうです。篠村さんには関係ありません!聞かないでください!」


「そ、そんなに言う?」


「ご、ごめんなさい!言い過ぎました!違うんです!」


 あはは、やっぱり慌てるまひろんは可愛いなぁ。

 今朝初めて見た時はおとなしそうで凛とした雰囲気だったけど、可愛らしい一面があるじゃないか。


 むふふ。


「これはうちが一肌脱ぐべきかな〜」


「犯罪だぞ。服は着とけ」


「そう言う意味じゃなぁぁい!」

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