清楚姫とお昼ご飯 ①
清楚姫こと姫野の一挙一動にドキドキさせられること3時間。
オフィスの案内や会社についてなどをあらかた説明し終えたところで昼休憩の時間となった。
「今から1時間昼休憩だ。俺は外に飯食いに行くけど姫野はどうする?」
「そうですね。篠村さんがよろしければご一緒してもよろしいでしょうか?」
俺がそう聞くと姫野は少し悩むそぶりを見せてからそう言った。
「お、おう。別にいいけど……。何か食いたいものあるか?」
「特に好き嫌いはありませんので、篠村さんのオススメを教えてください」
まさか清楚姫とお昼ご飯なんて。
近くの某牛丼チェーンでいいやって思ってたけど予定変更。
ちょっと値は張るがとっておきのところに連れて行ってやろう。
「わかった。んじゃ行くか」
そう言って店へ向かおうとしたその時。
「ちょっとまてぇい!」
どこぞの食堂のようなセリフを放った矢野が目の前に立ちはだかってきた。
「初めまして姫野さん!うちは矢野一花、よろしくね!」
「姫野眞尋です。よろしくお願いします」
急な挨拶にしっかりと返す姫野。こういうところも流石だな。
「こいつは俺の同期だ。こう見えても年上だぞ」
「こう見えてとはなんだ!しっかり者のお姉さんだぞ!」
手を振り回してぷんすか怒る矢野。
どこがしっかり者のお姉さんだ。わんぱくな子供じゃないか。
「それよりしのむー、姫野さんとご飯行くんでしょ?私もついて行ってあげるよ」
「いや、いい」
「なんでー--!!!みんなで食べたほうがおいしいよ!!!」
それはごもっともだが、謎の上から目線につい腹が立って。
「だそうだが。姫野、どうする?」
今回の主役は姫野だ。本人の意思が最優先である。
もっとも、この状況じゃ断りにくいだろうが。
「私は構いませんよ。矢野さんともお話してみたいですし」
「やったー!ありがとねまひろん!そうとなったら、時間もないしれっつごー!」
そういうと矢野は玄関に向かっていく。
勝手に入ってきて、勝手にあだ名をつけて。どこまで勝手なやつなんだ。
矢野の後を追おうと、俺は姫野に声をかける。
「勢いがすごくてすまんな、姫野。さ、俺たちも行こう」
そういって歩き出した俺だが、姫野がついて来ていないのに気が付いて姫野の方を振り返ると、姫野はその場に立ち止まって自分の胸に手を当てていた。
「……ぼいんぼいん」
……聞こえなかったことにしよう。清楚姫でもそこは気にするんだな。
気を取り直して俺たちは目的の店に向かう。
今日のランチは俺のおすすめ、「とんかつ青木」だ。
JR蒲田駅から徒歩3分ほど、このあたりでトップレベルのとんかつを出す店だ。少しお高めなので頻繁には来れないが、今日くらいはいいだろう。
「やっぱり青木か~。しのむー好きだもんね」
「そうだな。蒲田でとんかつと言えばやっぱりここだろ。姫野も期待しておいてくれ」
「そうなんですね。楽しみです!」
自信満々に言う俺に、姫野は優しく微笑んでそう返してくれた。
にしてもこの笑顔、破壊力が半端ない。俺はこの先耐えられるだろうか、心配だ。
店についた俺らは早速注文を済ませた。
3人とも、俺のお勧めの上ロースとんかつ定食だ。
ソースではなく数種類の岩塩から好きなものをかけて食べるのが青木のこだわり。あぁ、腹が減ってきた。
料理が来るのを待つ間、俺たちは雑談に花を咲かせる。
「え、しのむーサッカー部だったの!?あはは、ぜんぜんそう見えな~い!」
「見えなくて悪かったな。てか言ってなかったっけ?こう見えてもそこそこ期待されてたんだぞ」
「そうですよ一花さん。篠村さんは9番でフォワードですごくお上手だったんですよ!」
姫野もいつの間にか、矢野のことを下の名前で呼んでいる。打ち解けたみたいでよかった。
っていうか今気づいたんだが……
「姫野よく知ってるな、俺が9番でFWだったなんて」
驚いた。大した関りもなかったはずなのに。さすがは完璧清楚姫。
なんて俺は一人納得していたが、なにやら姫野は慌てた様子。
「い、いえ。クラスメイトでしたし、知ってて当然ですよ!と、当然なんです!」
「なんでそんな焦ってるんだよ。別に変なことではないだろ。でもまぁクラスメイトって言っても一回だけだし、そこまで話したこともなかったよな」
「え、いや。そうなんですが……たまたま目に入っただけというか、決していつもこっそり見ていたとかではなくてですね……ごにょごにょ……」
だんだんと声が小さくなっていったから最後の方はよく聞き取れなかった。
別に怒ったりしてるわけじゃないのにな。
「そ、それより!篠村さんと一花さんってすごく仲がよろしいですよね!」
あ、あからさまに話題を変えやがった。
何をそんなに焦っているのか。まあ気にしないでおいてやろう。
にしても、俺と矢野の仲がいいか。そう見えるもんなのか?
ただダル絡みされてるだけな気もするが……
「まぁ一応同期だしな」
「それだけじゃないでしょ、しのむー?」
はえ?それだけだろ。むしろなにがあるんだ。
なんのことだかさっぱりわかってない俺に対して、姫野はなぜか顔を強張らせて矢野に問う。
「と、というと?」
すると矢野は、ニヒルな笑みを浮かべてこう言い放った。
「……うちら、つきあってるもん」
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