プロローグ
あるところに一人の錬金術師の少女がおりました。彼女はわずか十二歳という若さで王宮のお抱え錬金術師となり、国一番とまで評され王国で少女の事を知らない者はいない程有名人でしたが、彼女は今の地位に満足してはいなかったのです。
「本当に私の腕がいいの? アカデミーを首席で卒業した実力が買われただけで、本当の私の事なんて誰も見ていないんじゃないかな」
肩書だけが独り歩きし、少女自信を見てもらえていないと感じていたある日。
「私の事を誰も知らない国に行ってそこで一から錬金術の腕を磨こう。王宮錬金術師としてではなくただの一人の錬金術師として」
思い立った彼女は王様に退職願を出し、周囲が止めるのも聞かずに隣国コーディル王国へと旅立って行きました。
「ここで、一から修行のやり直しよ。王国一の錬金術師なんかじゃないただの一人の少女として私の錬金術をこの国に広めて見せるわ」
こうして少女ソフィアの物語は幕を開ける。この国で新たなはじまりを迎える事となったのです。
===
コーディル王国の入り口の前に佇む一人の人物。名はソフィア。少し前までは王宮で働いていた錬金術師の少女である。
「とりあえず、工房になりそうな家を探さないとね」
新しい生活に胸を弾ませながら、彼女は王国の入り口である噴水広場へと足を踏み入れた。
「家を探すには、不動産よね。って……んん!?」
ソフィアの目の前には若い女性。具合が悪そうに座り込んでいる。その様子に彼女は急いで駆け付けた。
「ど、どうされたのですか?」
「平気よ。急にお腹が痛くなっただけで……直ぐに良くなるわ」
「腹痛ですか。ちょっと待ってて」
女性の言葉にカバンの中を探り腹痛に効くアイテムを取り出す。
「あった。これを飲んでください」
「これはお薬かしら? 見た事ない薬ね」
ソフィアの言葉に見た事ない飲み薬を興味深げに観察する。
「錬金術で作った腹痛に効くお薬です」
「錬金術? オルドーラ王国で主流になっているっていうあの錬金術のことかしら。それなら貴女は錬金術師さんなのね。私初めてお会いするわ」
彼女の顔をまじまじと見て微笑む女性。だが具合が悪いのか脂汗を流していた。
「いいから、早く飲んでください」
「あ、そうだったわね。それじゃあ……ぅん」
早く飲むように促すと女性が薬を一粒つまんで飲み込む。
「あら? この薬って速攻薬なのかしら。もうお腹の痛みが治ってしまったわ」
「良かった」
不思議がる女性へとソフィアは治って良かったと安堵した。
「私はリーナ。貴女のおかげで助かったわ」
「私はソフィアと申します。この国には来たばかりなのですが、ここで工房を開きたいと思っていて、不動産屋さんを探していたんです」
リーナと名乗った女性にこの国へと来た理由を説明する。
「あら、それならいい人を紹介するわよ。不動産屋さんなんかより信頼できる人だから、その人の所まで案内するわ」
「お願いします」
こうしてソフィアはリーナの後について家を紹介してくれるという人の所へと向かっていった。
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