輝く世界

 港には、本当に『あたしたちとは違う』人たちがいた。

 まず、みんなでかい。身長もでかいし、目や口や鼻もでかい。


 髪や目の色は色無しのあたしの目にはよくわからないけど、でもあたしたちが育った島にいた人たちよりは、なんだかみんな色も薄い気がする。

 建物はみんな石でできていたし、あたしの知ってる木の家よりもずっとでかかった。それに道も広いし、人もたくさんいる。

(ここが、外国か… )

 振り返れば、ゆらゆらと揺れる水面が太陽の光を反射して、一秒ごとに表情を変える海。

 潮の香りが髪を撫でて、娘は海が怖いのか、腕の中でぐずぐずと身じろぎしている。


(この海の向こうに、あたしたちの故郷があるんだ… )

 もう帰れない場所が。


 もう帰らない場所が。

 娘を抱えるあたしの腕に、フジが触れる。

 その瞬間、世界がまばゆく輝き出す。

 空は青く澄み渡り、海はその色を受け止めて深く静かに眼前に広がる。海を渡る鳥も、港を出ていく船も、すべてが色(ひかり)に彩られる。

 美しい世界だった。


 あたしが生きる世界は、こんなにも美しいものなのだと。

(あたしは、ずっと前から知っていた!)

「… そろそろ、いきましょう」

 フジが言った。

「この子も、なんだか海が怖いようだし」

「うん」

 微笑んで、そして、フジの指先があたしの腕から離れる。

 しかし、あたしの世界から光が失われることはなかった。

 あたしは娘を抱いて、フジと一緒に駆け出す。

 海の向こうの故郷に背を向けて。

 光り輝く永遠の少女になって。そして、あたしたち家族は三人で暮らした。

 娘は成長し、青い目の男と結婚して、やがてあたしたちから離れていった。

 そして、再びあたしとフジだけの時間が流れる。

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