出港

 南へ南へと下り、あたしたちはついに大きな港町にたどり着いた。

 フジに連れられて、大きな船へと続く桟橋を渡る。

 これもフジの不思議な力なのか、すれ違う人たちはみんな揃ってあたしたちが見えていないような顔をしていた。

 つまり、あたしたちは誰にも咎められずに船に忍び込むことができた。

 窓のない貨物庫にやってくると、フジはあたしと娘を入り口から見えない荷物の影に座らせた。

「ひかり。この船は外国に向かう。そこには髪も目もいろんな色の人がいる。… だから、この島国では珍しい色の目を持つこの子もきっと生きていけるはずだわ」

 そして自分と同じ色の瞳を持つ赤子の頭を撫でて、

「二人とも、船が目的地に着くまで絶対にここから出てはダメよ。… あなたも、泣いたりしてお母さんを困らせてはダメよ」

 娘はキャッキャとうれしそうに笑う。

 それを見て、フジはふふっと笑って立ち上がり、出入り口のほうにいこうとして、

「… 待って」

 あたしはその手を掴んだ。

「なんで、いなくなろうとすんの… ?」

 フジは涼しげな目元を伏せて、

「… だって、私は… 」

「… ダメだよ」

 ぐっ、と腕を掴む手に力を込める。

「今度はフジも一緒にいくんだよ… !化け物だとか、そんなの関係ないんだよ!だって、あたしは… フジと一緒にいたいっ… !」

「… ひかり… でも… 」

「もう、あんなふうに拒絶したりしないからっ!」

「っ!」

 藤の瞳に、雪山での悲しみが一瞬よぎる。

「慣れていくから… !怖くなんか、ないから… !だから、あたしと一緒に生きて… !」

 そのとき、ゴゥンと大きな音を立てて、船が動き出した。

「… !」

「ほら… もう、観念しなよ。船、出ちゃったよ」

「… まだ、走れば岸に… 」

「あんた、まだそんなことっ… 」往生際の悪いフジの袖を、

「あうー」娘が手を伸ばし、掴んだ。

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