第11話 同型機サトゥ

「父さんの病気は治るの?」


 ローダが、レイに問いかけた。レイは大きな屋敷の庭に膝をつき、椅子に座る老人を手で覆うようにしている。


「ああ、君の父上は枢軸臓器不全に陥っているけど、俺のナノ医療システムなら治せるよ」


「ありがとう」


 彼女の体感としては数日の働きだったが、目的は果たされ、安堵が彼女を襲う。


「ローダンセ大尉! 北方鎮守府が襲撃に遭いました。出撃を……」


 慌てて飛び込んできた兵士が、その状況を見て口を止めた。言葉を聞いたローダもまた、ザックがいるのに自分が呼ばれるという状況から恐ろしいことが起きていると感じていた。


「……レイ。あとどれぐらいで父さんを治せる?」


「もう治ったさ。でもいいの? 父上と少し運動でもしていったら?」

 

 レイの言葉をローダの父が笑った。


「なに。君が守って帰ってきてくれるんだろう? レイくんのおかげで時間はある。行ってきなさい」


「……わかってる。いくよ。レイ」


 ローダはレイに乗る。レイは飛びあがり、北に向けて飛び始めた。そして、ジェット機でも数時間かかる距離をあっという間に飛び、北方鎮守府に降り立った。


 黒い機体が青い光の剣を持ち、ザックのゴッザが全身に焦げ目を付けながら黄色い光の剣を持っている。


 黒い機体はゴッザの頭を切り飛ばし、ゴッザは相手のコックピットに向けて剣を突き立てるが、効果はなかった。


 レイが飛び込み、黒い機体を足の裏で踏み飛ばした。


「あいつ、なんで黒いのに光を弾くの!?」


「逆位相装甲だ! 説明できるが暇がない。取り敢えず効かない前提で戦ってくれ!」


「わかった!」


 ローダは、レーザーのボタンから指を離す。


「人だって踵が一番硬いんだ、なら機械だって!」


 光の剣を捨てて殴りかかろうとした黒い機体の拳を、レイの足が砕いた。中指と薬指がひしゃげ、使い物にならなくなる。


「このサトゥと同型機か、出てきてくれたことに感謝しよう」


 サトゥが飛び空中回し蹴りをレイに放つ。それを右腕で受け止めたレイの肘関節のモーターが悲鳴を上げる。


「受け止められないか!」


 レイは蹴りを左に受け流して、体勢を低くしながら反時計回りに回転する。そして地面に手を付き、左足で後ろのサトゥを蹴り飛ばす。


「こいつ、やるな……」


 すぐにレイは立ち上がり、飛ばされたサトゥとの距離を詰める。サトゥも立ち上がって両者は向かい合った。サトゥはレイの左回し蹴りを機械の可動域でのけぞって躱し、膝の裏の可動装甲に手刀を入れる。そして、i姿勢を崩したレイの肩に蹴りを入れながら彼の上を飛び越えた。


「手の使い方がそれだけだと思うな!」


 レイは立ち上がり、後ろの駆逐艦ケツァルコアトルの装填された三連魚雷発射管を艦から取ってサトゥに投げつけた。突然の投擲をサトゥは躱しきれず、もろに魚雷をぶつけられてレイが接近するための時間を作ってしまった。レイはサトゥの腰の可動装甲を掴んで引っ張り上げ、脆弱な接合部の裏に蹴りを入れ、破壊してむしり取った。


「まずい! そこをやられては!」


 サトゥは全速力で飛びあがってレーザーで滑走路を溶かし、海の方へと離脱する。


「当たれ!」


 レイは毟ったばかりの装甲と、近くに落ちていた盾をサトゥに投げつける。盾がサトゥの右足にぶつかり、装甲の出力をすこし落とす。


「今なら……」


 ローダがレーザーのボタンに指をかける。しかし、海中からミサイルが放たれたことをレイの探知機が示す。すぐに彼女は標準をそちらに向け、レーザーのボタンを押した。水平線のすぐ近くでミサイルが爆発する。その閃光に紛れ、サトゥは海中に逃げていった。


「逃がしたか……」


 レイが呟く。


「違う。守れたんだよ」


 ローダが、周りの人間や船、建物を見てそう言った。

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