第003話 絶望③

「俺は一体何のために戦ってきたんだ・・・」


ルークはもはや敬語を話す余裕もなく、今の正直な気持ちを吐き出す。


確かに国のために戦った。そのことは誇りにも思う。


だが、それは自分の両親やアメリアのために戦うことの延長であった。


何よりも守りたかった両親は既に亡くなってしまい、


誰よりも大切にしたかった許嫁のアメリアは自分ではない誰かと結婚してしまった。


「・・・こんなことなら戻ってこなきゃよかった」


ルークは悔しさや悲しさ、様々な気持ちから自分の爪で血が出るほど拳を強く握りしめる。


そんな様子を不憫そうにみていたタバサがそっと声を掛けた。


「あんたが死んだことを聞いたとき、アメリアはとても悲しんでね。それこそ、ほとんど何も食べられなくなって、もう少しで餓死ってところまでだったんだよ」


「・・・アメリアが?」


ルークの言葉にタバサを頷き、


「アメリアの両親がどうにかして食事だけでもと色々と手を尽くしたんだがどれもこれもまるで効果が無くてね。部屋にこもってずっと泣いてばかりいたんだよ」


「・・・アメリアもそこまで俺のことを想ってくれていたんですね」


自分だけがアメリアを想っていたわけではなかった。


そう思うと、少しだけだが報われた気がした。


「結局、その時にアメリアを救ったのはあんたの母親だった」


意外な言葉にルークは驚く、


「母さんが?」


「ああ、あんたの母親も、もちろん父親もだがあんたが死んだと聞いてみるみる元気が無くなっていったよ。だけど、不可解な事が多かったからね。あんたの両親は、真相を明らかにすることに熱中することで表面上は元気になれたんだ。周りが見えるようになったあんたの母親はアメリアが未だ悲しみの只中にいたことを漸く知ってね。しかも餓死寸前ってことを聞いた途端アメリアの部屋のドアを蹴破って入っていったんだ。まったく、型破りな人だったよ」


タバサが呆れたように言う。


その光景がイメージできたルークは少しだけ笑い、


「母さんらしいや」


とそう呟いた。


タバサが続けて、


「あんたの母親がアメリアに何て言ったと思う?こういったんだ


 アメリア

 あなたはもう充分ルークのために悲しんでくれた。 

 ルークのことを想ってくれた。

 でもね、だからこそルークが生きていたらきっとこう言うわ。

 『俺のことをそこまで想ってくれてありがとう。

  だが、俺のためにアメリアが苦しんでいるなんて

  自分が許せない。

  これからは俺のことはいいから俺の分まで幸せに

  なってくれ』

 ってね。

 だからもういいの、あなただけでもルークの

 ・・・息子の分まで幸せになって


ってね


その日をきっかけに漸くアメリアが少しずつ元気になっていったのさ」


「そうか・・・ありがとう母さん」


タバサの話を聞いたルークは天国にいるであろう母さんに向かって礼を言った。


ルークの母親がいなければ両親だけじゃなく、アメリアも死んでいただろう。


アメリアのそばにずっといたかった気持ちは誰よりも強いが、それは叶わなかった。


だけど、どこかで生きてくれている。


ルークはそう思うと、自然と立ち上がることができた。


「ありがとう。タバサ姉さん。色々知れて良かった」


この後の話は聞かなくても分かった・・・本当のところは聞きたくなかったのでルークはタバサに礼を言うと躊躇うことなく家の外に向かって歩いていく。


「・・・達者でね、ルーク」


タバサはこのままルークを行かせたくない気持ちに駆られたが、ぐっと堪えると小さくそう呟いた。


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