第56話


しかしスティーブンがこのタイミングでメリーに声を掛ける。



「メリー嬢、セレニティに手を出そうとしているように見えたが、どういうつもりだ?」


「……えっ、あっ、それは」


「見過ごせない。説明してもらおうか」


「ぁ……違っ」



珍しく怒りを露わにするスティーブンに、ジェシーは足を止めたようだ。

メリーは先程の余裕は消え、言い訳もしどろもどろになっている。

瞳いっぱいに涙を溜めて顔を真っ赤にしたメリーは俯いたまま何も言葉を発しなくなってしまった。


セレニティはスティーブンに「わたくしは大丈夫ですわ」と声を掛けた。

これ以上はスティーブンの立場が悪くなってしまうのはよくないと思ったからだ。



「何の騒ぎかと思えば、あなた達だったのね」


「あら、セレニティ……!」


「スティーブン、何している?」


「ブレンダ様、トリシャ王女殿下……!ハーモニー様も」



ブレンダとトリシャの高貴なオーラと美しさに圧倒されている。メリーやその周囲の令嬢達は一歩、また一歩と後ろに下がっていく。

ハーモニーはいつものようにセレニティの頭を撫でている。



「セレニティ、そのドレス似合ってるじゃん」


「ありがとうございます。ナイジェル殿下」


「当然ですわ」


「わたくし達がセレニティのために選んだんですもの」


「本当、こう見るとブレンダと姉上の妹みたいだな」


「そうね、わたくし達の可愛い妹よ」


「えぇ、ブレンダの言う通り。それにとっても頼もしいのよねぇ」



トリシャとブレンダに選んでもらったドレスをナイジェルに褒められたセレニティは上機嫌だった。

その場でドレスを見せるようにクルリと回ってから二人に抱きついた。


誰がドレスを選んだのかを知った令嬢達は一気に顔が青ざめていく。

先程までセレニティのドレスを馬鹿にしていたからだ。

そしてセレニティにそのことを言わないでと言わんばかりに泣きそうな表情のまま首を横に振り訴えかけてくるではないか。


(あらあら……)


暫くセレニティが可愛がられる様子を間近で見ていた令嬢達が足早に去って行ったのを見て、メリーも素早く人混みに消えていく。

どうやらジェシーとは違い、引き際は弁えているようだ。


スティーブンがメリーを追いかけようとするが、それをセレニティが制す。

スティーブンは不満そうではあったが、これだけ見せつけて牽制できれば十分だと思っていた。


ジェシーはというとスティーブンに話しかけようとしているが、ハーモニーがそれをさせないように立ち回っている。

天敵であるハーモニーがいることで、ジェシーはこちらに近づくことができずに悔しそうにしている。


改めて豪華なメンバーに囲まれていることを感謝していた。

セレニティは大勢の人たちに囲まれてパーティーの楽しさををしみじみと感じながら感動していた。

皆で楽しく談笑していたが、色とりどりの食事やデザートを食べたくなりウズウズしていた時だった。



「セレニティ、これとこれが好きだろう?」



目の前に差し出された皿の上にはセレニティの好物ばかりが載せられている。

セレニティはスティーブンに考えが読まれていることに驚いていた。



「ど、どうしてわかったのですか!?」


「これだけ共にいれば、そのくらいわかるよ」


「ありがとうございます!スティーブン様」



皿の上を見てキラキラと瞳を輝かせているセレニティをスティーブンは優しい表情で見つめている。


そんな二人を見ていたハーモニー達はスティーブンのいつもとは違う行動に気がついていた。

明らかにセレニティを特別視していることは一目瞭然だったが本人達はそのことに気づいていない。

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