第20話
今日でセレニティが怪我をしてから一週間となる。
小説の中ではドルフ医師を拒否し続けてそろそろ傷が化膿する頃だろうか。
(セレニティは現実を見たくなかった。これ以上、傷つきたくなくて必死に自分を守っていたのね)
幼いセレニティの心情を考えると胸が痛い。
左半顔に強い痛みや皮膚が引っ張られる感覚はあるものの、清潔な包帯に変えた今では血が滲むこともない。
これで傷に細菌が入り、熱に浮かされることもないだろう。
実際の傷をまだ見たわけではないので何とも言えないが、セレニティはドルフ医師からの治療をこれからも受け入れようと思っていた。
「それに普通だったら、そんな顔でスティーブン様に会えないわよ……!もう少しよくなってからの方がいいわ!スティーブン様のお目汚しになるかもしれないし、優しい方だから責任を感じてしまうかもしれないもの」
「だが、スティーブン様からの申し出なのだ。何度も断るわけにもいかないだろう?」
「ねぇ、セレニティ!あなただって、そう思うでしょう!?」
焦っているのか言いたい放題のジェシーにセレニティは静かに首を横に振った。
どうしてもセレニティをスティーブンに近づけさせたくないのだろう。
しかしこちらもジェシーの心情に合わせて動いていられない。
「わたくしは大丈夫ですわ」
「…………ッ!?」
「何も問題ございません。そのまま進めてくださいませ」
「わかった。明日には手紙の返事を出そう」
「構いませんわ」
「な、なんで……」
ジェシーのモカブラウンの瞳は大きく見開かれている。
確かにまだ痛々しいかもしれないが、スティーブンの気持ちを考えれば早めに対応した方がいいはずだ。
父の言う通り、それをスティーブンが望んでいるのだから。
(原作では一年経ってから二人は初めて顔を合わせるんですものね……そこでセレニティはスティーブン様を罵倒するのだけれど、わたくしが大好きなレオン様の父親になるお方ですもの!少しでも気持ちいい気分で今後を過ごしていただきたいわ)
セレニティは自分がレオンの母親であることも忘れながらファン目線で思っていた。
ジェシーが鼻息荒く「やめた方がいい」と訴えかけている。
セレニティは空気を変えるために父に問いかけた。
「それよりもお父様、ドルフ医師は次にいついらっしゃいますの?お屋敷の外で過ごしたいのですがマリアナがドルフ医師の許可がなければダメだって言うんですもの!」
「当然です」
マリアナは腰に手を当てながらセレニティを見ている。
父はマリアナとセレニティを交互に見ながら咳払いをして頷いた。
「ならば、聞いてみよう。恐らく一週間後くらいになると思うが……」
「一週間後……遠いですわ」
「それとドルフ医師が自分が行けない間に小まめに包帯を変えたほうがいいからと色々と預かっている」
「まぁまぁ!ドルフ医師には感謝しかありませんわね。全てマリアナに渡しておいてくださいませ」
「マリアナ、頼めるか?」
「お任せください」
ドルフ医師がすぐには来れないことを残念に思っているセレニティの後ろで、マリアナがセレニティに耳打ちをする。
「たとえドルフ医師に許可をいただいたからといって、はしゃぎすぎてはいけませんよ!傷が悪化したら大変です」
「もう……マリアナは心配性ね。でもそうね、マリアナの言う通りだわ。マリアナがそう言うのならドルフ医師に確認を取るまで我慢します」
終始和やかな雰囲気のまま食事を終えた。
苛立ちを露わにするジェシーを置いて……。
食事を終えてマリアナと共に廊下を歩いていたが「入浴の準備をしてまいりますので大人しく待っていてくださいね」と言って先に歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます