第7話
そこでセレニティの心の支えとなっていたのは元平民でビルード侯爵の隠し子ということが発覚したキャサリン・ビルードだった。
可愛らしい容姿は学園中で話題だったが、男勝りな性格とハッキリした口調。
貴族であればみんなが知っているセレニティの事情も彼女は知らなかった。
内気なセレニティとは真逆の性格に惹かれたのかもしれない。
親しくなるうちにセレニティは初めて自分の心内を明かすことができた。
彼女に家族のことを話すうちに「そっか。それは辛かったね」と言って「私も体に火傷の跡があるんだ」と言って背中の爛れた皮膚を見せてくれた。
「母さん…じゃなくてお母様からアンタなんていなければいいって毎日毎日大変だった」と、キャサリンは淡々と語った。
娼館で暮らしていたキャサリンは母親から辛く当たられていたそうだ。
そしてある時突然、ビルード侯爵に売られたそうだ。
キャサリンはその辺の事情はよく知らないが、髪色も瞳の色ビルード侯爵と同じで顔もよく似ている。
だが今は正妻と娘達に虐げられているのだと語った。
「もう最悪だよ。醜い、傷物、平民っていつも罵られるしうるさいったらないわ!私はいつかアイツらにいつか復讐してやるんだから」
「……キャサリン様は強いのね」
「様なんてつけないでよ。私のことは名前で呼んで!」
「でも……」
「私もセレニティって呼ぶね。これからよろしく。セレニティ」
前向きで裏表もなく隠し事もないキャサリンのことがセレニティはすぐに好きになった。
しかしジェシーはそんなセレニティの細やかな幸せすら奪い取ろうと、キャサリンをセレニティから引き剥がそうとした。
だがキャサリンはジェシーを呆気なく撃退した。
キャサリンの態度にジェシーは顔を真っ赤にして帰っていったそうだ。
セレニティはそれが嬉しくて仕方がなかった。
その時にジェシーはキャサリンの悪口を言っていたので、初めてジェシーに反抗した。
キャサリンに感化されたのかもしれない。
セレニティの学園生活はキャサリンのお陰でとても楽しいものとなった。
「私はこんなところさっさと出て行くから!」
そんなキャサリンの考えを聞いていたからか、セレニティもシャリナ子爵邸から早く出たいと思うようになっていた。
ジェシーの嫌がらせも年齢が上がるにつれて手の込んだものとなり、ついにはマリアナにも被害が及ぶようになった。
(もう耐えられない……!マリアナはわたくしが守らなくちゃ)
十八歳で学園を卒業した後にセレニティはすぐにスティーブンと結婚した。
ジェシーのいる家から出て行けると喜んだのも束の間、セレニティをよく思っていなかったネルバー公爵夫人が立ち塞がった。
彼女からするとセレニティは息子を苦しめ続けた悪女だったのだ。
セレニティが十五歳の時にネルバー公爵を亡くして、スティーブンが爵位を継いでからは、夫人はずっとスティーブンを支えていた。
本当はセレニティではなく、もっとネルバー公爵家に利になる令嬢を迎える予定だった。
スティーブンもセレニティを手放さなかったのは自分だとネルバー公爵夫人に訴えたものの、聞く耳を持とうとしなかったそうだ。
「すまない……セレニティ」
結婚式に顔を合わせた時にスティーブンから言われた言葉だった。
その言葉の意味が今ならよくわかるような気がした。
ネルバー公爵邸での暮らしは、ネルバー公爵夫人とジェシーが入れ替わっただけだった。
だがシャリナ子爵邸と違ったのはスティーブンがセレニティを守ってくれたことだろうか。
セレニティの両親は気性が荒く兎に角煩いジェシーをずっと放置していた。
何か口を出せば自分が気が済むまでネチネチと相手を責め続ける。
そんなジェシーの対応に疲れてしまったのだろう。
しかしスティーブンはセレニティの味方でいてくれた。
(スティーブン様は、こんなわたくしを見捨てないでいてくれたんだわ)
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