第6話
暫くするとジェシーはスティーブンに「セレニティの代わりに」と言って、よく一緒にパーティーに参加するようになったそうだ。
ジェシーがスティーブンに何を吹き込んでいるのか……考えたくもなかった。
それからはスティーブンとも顔を合わせずらくなってしまい、スティーブンとの関係は進展することなく、ますます悪循環に陥っていた。
しかもジェシーは最近、自らが婚約者のように振る舞うようになった。
上機嫌でセレニティの前に現れてはスティーブンとのことを報告しにやってくる。
「スティーブン様はやっぱり素敵。傷者のあなたじゃ釣り合わないわ」
「スティーブン様に相応しいのはあなたじゃない。わたくしなのよ」
「あなたにはスティーブン様はもったいないわ。さっさと消えなさい」
「早く婚約を解消しろって言ってるのよ!」
ジェシーの怒鳴り声を止める者はいない。
マリアナがいる時はセレニティの耳を塞いで守ってくれるが、ジェシーはそれを見越した上でセレニティが一人の時間を狙ってやってくる。
扉の前で語られるジェシーの暴言は毒のようにセレニティの心の中に染み込んでいく。
(このまま……わたくしが消えてしまえばいいのに)
スティーブンはそんなセレニティに何も言うことはなかった。
なるべく顔を見せないようにしているように感じた。
そしてセレニティも自らスティーブンに関わることはない。
何故ならばジェシーが目を光らせていたのもあったが、スティーブンに何を言っても無駄だと諦めていた。
(どうしてスティーブン様は頑なにわたしとの関係を続けようとするの……?)
一度も顔を合わせたことのないネルバー公爵夫人もセレニティのことを心底嫌っているとジェシーは語った。
しかし二人の関係にも少しだけ進展もあった。
セレニティはスティーブンと手紙のやり取りを始めた。
スティーブンは手紙の中でセレニティを咎めるようなことを言ったことがなかった。
第二王子の近衛騎士として働くスティーブンは様々な国の話をしてくれた。
顔が見えずに文字でのやり取りは楽しかった。
普通の友人のような関係で接することができた。
手紙の中ではセレニティは素直になれた。
セレニティが十七歳になり学園に通いはじめると、令嬢の友達も少しずつ増えていた。
視野が広がってくると自分が置かれた状況が見えてくる。
両親もセレニティが外に出るようになると態度が元に戻ったが、疑念は消えることはなかった。
そしてジェシーはセレニティが外に出ることに対して不満を露わにするようになった。
それは一時はスティーブンの婚約者のように振る舞っていたがセレニティが表舞台に立ち始めると、それができなくなったからだろう。
それでもジェシーはスティーブンを諦めるつもりはないようだ。
ある時、セレニティがネルバー公爵家に渡す手紙を侍女から奪い取り、読み上げているのを見てゾッとした。
そして部屋に戻ったかと思いきや、セレニティが書いた手紙ではない封筒を侍女に渡していたのだ。
それを見てからセレニティはスティーブンに手紙を出せなくなってしまった。
子爵邸では常にジェシーに見られているような気がした。
ジェシーの手紙に何が書かれていたのかスティーブンには怖くて聞けなかった。
そのせいもあり縮まるかと思っていた距離も再び止まってしまった。
社交的で美しさを磨くジェシーと違って、セレニティは傷が目立たないようにするために俯いてばかりで猫背で地味だった。
そのせいかジェシーにはスティーブンには相応しくないと毎日のように罵られていた。
セレニティは十七になり学園に通いはじめた。
ジェシーがいない学園でセレニティはやっと気が抜ける時間を過ごせていた。
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