京極ちんに春が来る?
「ずびばぜんんん」
「許さねーよ」
「いだいでずううう」
ナンパを止めろっ!――と割り込んだところまでは良かったのだが、やたらとガタイの良い男に腕を捻られ、あっさりと作戦終了となっていた。
なおかつ相手は三人組で、何れの男も京極では太刀打ちできそうな相手ではない。
――京極くんは、なかなか見どころのある男だったんだな。
予想外の勇気を見せた京極に、オサムは内心で感心していた。
――ただ、己の実力を把握していない点と、多数を相手にする場合の基礎が出来ていない。ふむ、ボクが少し鍛えてみるか。
オサムは、本人が聞けば、ありがた迷惑であろう計画も立てている。
ともあれ、場を治める必要があるため、キララとクラリスの絡み付いた腕をそっと外してから京極の方へと向かった。
「ガキが、人様をナンパ野郎扱いしやがって」
「まったくだぜ」
「あひぃ、お許しをおお」
痛みと恐怖で、京極からは恥も外聞も消え失せている。ただし、心の中で突っ込む余力は残っていた。
――ナンパ野郎だろうがよおおおお。
――ひぃ、で、でも怖いっ。
――ユウナちゃんのおっぱいの事しか考えてなかったから、こんなヤバい奴らとは気付かなかったぜええええん、ううう。
彼がユウナの許へ乗り込めたのは勇気ではない。つまりは、単なる不注意だったのだ!
「だいたい、俺たちがこんな女をナンパするかよっ!!」
京極の後ろで、秘かにジリジリと逃げようとしていたユウナを指差して怒鳴った。
癒し系を狙ってかどうかは不明だが、彼女の着ている白いモノキニ水着は良く似合っており、ルックスで「こんな女」呼ばわりされる余地はないだろう。
「こっちは、抗議しただけだっつーの」
「な、なんのことっすか?」
――抗議だと?
――意味が分からん。ともかくオサムさん助けてぇぇ。
「お前は知らねぇだろうけど、この女は――ぶほおっ」
「ふんぐぉ」
「いぎぃ」
京極とユウナに絡んでいた三人の男は、短い呻き声を上げつつ砂浜に崩れ落ちる。
「オサムさん!」
「BJくぅん」
涼しい顔をしたオサムが、彼等の背後から現れた。
「見ての通りだ、京極くん」
これが、京極パーサーカー計画の記念すべき第一歩となる。
「相手が多い時は、ともかく背後を衝け」
「は、はい?」
「振り向く前に敵を落とせば、人数差など関係が無くなるからな」
◇
オサムが一瞬にして男達を落とす様を見ていたクラリスは、完全に狩人のマインドとなっていた。
仕事と暴力――。
この二つを兼ね備えた男こそが、クラリスの理想なのだ。
――絶対強いって思ってたけど、やっぱりよね。つうかBJの身体すごくね?
双葉アヤメの下腹部を疼かせたオサムの肉体は、ビーチに舞い降りた西船キャバ嬢をも疼かせていた。
やはり、筋肉は全てを解決するのである。
「ねね。BJ、アタシが焼いてあげたお肉――」
「オサムきゅん。キララが丹精込めて焼いたお肉――」
「オサムさん、どうぞっ、これもどうぞっ、これもっ」
キララとクラリスに先んじて、なぜか益田が、オサムの皿に肉をさささと盛ってしまった。
本人的には、忠実な舎弟として当然の行動なのだろう。
「あ、ここはハラミの一番うまい部分です。皿に載せきれませんので、口を開けて頂けないでしょうか」
「分かった」
自分に出来る範囲でとなるが、オサムはトモダチの頼みは断らない。言われるがままに開かれたオサムの口に、かいがいしい様子で益田がハラミを差し入れた。
「(もぐもぐ)――ふむ、確かに美味いな」
その様子を、アヤメとミカは面白そうに見ている。彼女達としては、超積極的なキララとクラリスに先手を取られずに済むので、益田様々といったところかもしれない。
「しっかし、さっきは怖ったよぉ」
癒し系ユウナは、肉には手を付けずビールばかり飲んでいる。そのせいか、既に頬が赤くなっていた。
フロアの照明だと分からなかったが、顔に出易いタイプなのかもしれない。
「でも助けてくれて、ありがとぉ――」
――くっ、やはり俺はオサムさんの引き立て役か……。
――ま、次の獲物を探すしかないよな。
と、決意を新たにする京極だったのだが、
「――ねっ。京極ちん」
「ほえ」
「嬉しかったよ、おねーさん」
甘い声で囁くユウナは、童貞の京極の腕にそっと触れた。それだけで反応してしまった京極は慌てて自身の膝を閉じる。
「いや、助けたのはオサムさんっていうか――」
「でもぉ、一番最初に来てくれたのは、京極ちんだよ?」
――ち、ちん。俺は本日から、京極ちんだああああっ!!
「う、うん――む、夢中で――(主におっぱいにですけどぉ)」
「もし良かったらだけどぉ、明日さ、二人でご飯とか行くぅ?」
「おおおおっぱい――じゃなくて、行きますッ!!ご飯ッ!」
お調子者に春が来たのかもしれない。
「あは、じゃ約束ね」
「どどどこっすか?」
「船橋駅の南口で待ち合わせしよっかぁ♪」
その時、オサムの耳がピクリと動いたことに気付いたのは、恐らくは天王寺キララだけだっただろう――。
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