第5話 穴を検証してみる、出し入れ自由です!

昼になってようやく起きてきた俺はルゼルを起こした。


「ご、ごめんなさい。すぐに家畜に餌やりを……って」


俺の顔を見てきていつもの場所じゃないことに気付いたようだ。


「そんなことしなくていいよ」


首を横に振って軽く笑う。


今は俺以外に人はいない。

親は仕事に行ったし、兄貴は遊びに行ってるはずだし。


俺が何もしなくていいと言えばルゼルがなにかする必要は無い。


とりあえず今日の予定について考える。

まずはあの穴についての検証を行いたいな。


(異世界に戻りたい)


そう思うと。


コォォォォォォォォォォォ。


目の前に穴ができた。


「この穴は魔法ですか?」


そう聞いてくるルゼルに首を横に振る。


「分からない」


でも、魔法じゃないと思う。

俺はなんの能力も持たない一般人だった。


それが先日、こうやって急に穴に関わるようになった。


なんなのかは分からないけど魔法ではないことは分かる、そもそも日本に魔法はないし。


(超能力、なんだろうか?)


分からないけど、穴を出すための条件はなんとなく分かった。


たぶん、俺が世界を移動したいと念じればこうやって穴ができるんだと思う。


(なにか使えるかもしれないな。写真でも撮っておこう)


とりあえずスマホを出して写真を撮ってみることにした。


スマホの画面で穴全体を写るようにして距離を調整して、


その時に気付いた。


「ん?穴の上に数字?」


穴の上に【1】って数字が浮かんでた。


(なんの数字だ?これ、分からないけど……まぁとりあえず後回しだな)


次の検証に移る。


穴を閉じることは出来るんだろうか?

そう思いながら


(やっぱ、異世界はいいや)


と思うと。


音が止まり、穴も閉じた。


「なるほど」


これで穴の出現条件についての検証は終わった。


俺が異世界に行きたいと願えば穴はできて、気が変われば穴が閉じる。


向こうからこっちに帰ってくる時も、日本に帰りたいと思うと帰って来れる、といったところか。


(あと、気になることがあるとすれば………)


俺は昨日の穴でルゼルの世界に行けたが、繋がる世界は固定なのだろうか?


あと、数字の1についても気になった俺は


(異世界に行きたい、穴は2)


そう思うと


コォォォォォォォォォォォっと穴が開いて。


今度は肉眼で数字が見えるようになった。


穴の上には【2】という数字。


これがなんの数字かは現状確定はできないけど。


俺は仮定してみることにした。


(この数字で穴の繋がる先を変えることが出来るのかな?)


たぶん、そのための数字だと思うんだけど。


(やっぱ1にいきたい)


そう思うと。穴は一気に人が落ちれないような穴にまで縮小して、今度はまた拡大した。


すると


穴の上の数字はそれと同時に1に変わった。


「数字は俺の意思で変えられるのか」


穴についての検証はとりあえずこれで終わりでいいか。


穴の数字を何番まで変えれるのか、というのは気になるけどもし上限がなかったらそんなもの時間の無駄だし、何より現状ルゼルの世界ですら俺は十分に理解出来てないしな。大陸名は一致したけど、たまたまという可能性もある。


俺は目の前にある1と書かれた穴を見下ろしていた。


「ルゼル。一緒に入ろうか」

「え、えーっと。なぜですか?私は日本が気に入りましたが」

「俺はこの世界が嫌いなんだ、ごめんね」

「そ、そうなんですか?なぜ?」

「嫌な奴しかいないからさ」


そう言って思い出す。


と、その前に。

もう少し準備しようか。


「今から出す服に着替えてくれる?」


俺はそう言って押し入れから数年前に着てた服を引っ張り出してルゼルに渡した。

オシャレではないけど着るだけなら着れると思う。


「な、なんですか?これ」

「いいから着て。その服じゃ目立つからね」


彼女はずーっと向こうの世界の服を着てた。

本当なら昨日のうちに渡せれば良かったんだろうけど、すっかりこの事を忘れていた。


「ちょっと緩いくらいですかね」


そう言いながらクルクルと回ってみせたルゼル。


「似合いますか?」


俺に笑顔で聞いてきてドキッとする。


「すごく似合うよ」


そう言うとすごく嬉しそうな顔をしてくれた。


そんな彼女を連れて俺は家を出た。


「どこに向かうんですか?」

「コンビニだよ」

「コンビニ?」


不思議そうな顔をする彼女に説明する。


「へー。そんな夢のようなところがあるんですねー」


ルゼルと外を歩いてると周囲からの目が突き刺さる。

今は春休み。


学生が結構な数出歩いてる。


その学生達がみんなルゼルを見てる。


「おい、あの子かわいくねーか?」

「めっちゃ美人だよな。日本人じゃないだろうし」

「つか横にいるデブはなんだよ。チッ」


ルゼルのかわいさを認める声と俺を罵倒する声が聞こえてくる。


グッと拳を握りしめたけど言いたいことは理解出来る。


だって俺はこの子に釣り合わないようなデブなんだから。


だから、これくらいのことは甘んじて受け入れる。


そうしながらコンビニに入って


「気になるものがあったら言って。買うからさ」


ルゼルにそう言うと彼女は笑顔になった。

そんなルゼルと一緒に色々見ながら買い物をしてコンビニを出る。


いっぱい買った。

これはあれだ。異世界に行った時に食いっぱぐれないための保険。


俺はまだ異世界に対して理解が進んでるわけじゃないから。

保険は大事だ。


家に帰ってコンビニで買ったもののチェックを行う。


カップラーメン。

ペットボトルの水。


コーラ。

それからお弁当とか。

お菓子とか。

なんか色々買ってきた。


こんなんだから太るんだよなぁと思うけど、こんな食生活がやめれないんだよなぁ。


コンビニのご飯おいしいんだよね。


ガサガサ袋を漁って中身を確認していると。


「これは、なんなんですか?」


ルゼルがそう聞いてきたのはカップラーメンだった。


カップラーメンのことをじーっと見てる。


手で外装をコンコン叩いて中身を確認してるみたい。


「食べ物だよ」

「食べてもいいですか?」

「どうぞ」


そう言うと箱ごとカプって噛んでた。


予想外すぎるよ、それは?!


「え?えぇ?!!」

「硬いですよこれ」


そう言って俺に渡してきたので俺はフィルムを向いてフタも開けてあげた。


で、説明しながら作ってあげる。

お湯を沸かしてお湯を入れるだけだけどさ。


「ここにお湯を入れて作るんだ」

「へーっ。こんなのがあるんですねぇ」


3分経ったので箸も渡して食べさせてあげる。


「おいしー!こんなの食べたことありません!」


そう言ってラーメンを噛みちぎって食べていた。


いちいち言うのもなんだかなぁって思うけど、食べにくそうだし口出しすることにした。


「すするんだよ?こうやって」

「すす……る?」


よく理解してなさそうだけど、見よう見まねで俺の真似をするルゼル。


ズズズー。


「すごい!ほんとに食べやすくなりました!フブキさんは天才ですか?」

「え?天才って……?ふ、普通のことだよ?」

「そんなことありません!私たちの世界ではこんな食べ方誰も知りませんでしたよ?!天才ですよ!」


とまぁ、そんな感じでルゼルの初めての地球食体験は終わっていく。


俺はまた部屋の中に穴を作り出した。


それでもう確信した。


(この穴は俺が願えばこういうふうに出てくるんだな)


異世界に行く時、異世界から帰る時、そして、検証するために願った時、全部穴が現れた。


穴の出現条件は俺が世界を移動したいと思うこと、だな。


ルゼルの顔を見て言う。


と、穴の中に入る前にもう一度、聞いておこうかな。


「あらためて、ルゼルの世界ってなんていう世界なの?」


そう聞いてみると彼女は、ほほえんでこう言った。


「エルガルダ大陸ですよ」


聞き間違いなんかじゃなかったか。


(よし、確認してみよう)


あの世界が本当にエルガルダ大陸なのかを。

もし本物なのならば俺の庭のようなものだ。なんだって、できる!


パソコンに目をやった。

パソコンを起動してエルガルダの地図を表示して、ルゼルに聞いた。


「ねぇ、ルゼルの村ってどこ?」

「ここです」


そう言って指さしたのは森だった。地図にすら載ってないような村なようだ。


(だからゲームだって気付かなかったのか……)


なんでそんな場所に最初に行けたのかは分からなかったけど、俺は思った。


最初に出会えたのがルゼルで良かったって。

恥ずかしいから口にはしないけどさ。


それから俺は念の為フェイファンのWikiを検索して見ることにした。

攻略情報は覚えておかないといけない。

それでスマホにPdfとかで保存しよう。


ストーリー?もちろん無視して俺がやりたいことだけをやります。

勇者がブタ野郎なんて似合わないし。


で、最初にやることは決めてる!

痩せて、かっこよくなりたい!


あの世界ならそれが簡単にできるはずだ!

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