第47話 行こう

 そして、一週間後。


 今日は終業式、待ちに待った冬休み。

 みんなよかったね。


 ……そして、


「お待たせ、篠宮さん」

「あっ、冬木くん。おはよう!」


 彼女との初登校。


「早かったね。これでも早く来たつもりなんだけど」

「ううん、私もいま来たところだよ」


 ホントかな?

 ならいいけど。


「それじゃ、さっそくだけど行こう」


 学校へ。

 立ち話もなんだし。


 歩き出す。


 そう言えば、篠宮さんと登校するのって、地味にこれが初めて。


 まあ、今までは僕がギリギリに来てて、逆に篠宮さんはいつも早い。

 絶望的に時間が噛み合わなかったんだ。


 でもこれからは違う。

 なにせ彼氏である僕が合わせるから、その辺に関しては何も──

 

「……ん? 篠宮さん?」


 何してるの?

 電柱のそばに突っ立ったままさ。

 動こうよ。

 

「早くしないと遅刻するよ」


 まあ、僕は別にソレでも構わないけど。

 ん? 一緒に遅刻しちゃう?

 2学期の最後に。


「ねえ、冬木くん」

「なに?」

「今さらなんだけど、その、私でいいのかな……」


 ……ホントに今さらだね。


 この子、暗い顔していきなり何を言うんだろう。

 この前、僕のこと滅茶苦茶口説いてたくせに。

 なんだったら最後の方なんて、もうほとんどゴリ押しだったよね。


「ほらっ、私って地味だし、明代ちゃんにもよく変わってるって言われて……」


 知ってる。


「それに、その……結構オタクだよ?」


 うん、知ってる。

 たまにヒソヒソ話してるよね、春風さんと。

 盛り上がってるようで何よりだよ。


「あんまり可愛くないし……むしろ、冬木くんの方が全然……」


 ……はあ。

 

「そこまでだよ、篠宮さん」


 ピト


 そんな悪いお口は、僕の人差し指でキャンセルする。


「んふっ……⁉」

「篠宮さんがいいんだ。そう、誰に何と言われようとね」


 だから別に気にしない、今さら。


 一緒にいたい。

 それだけでいい、理由なんてそれで十分。


 そう言ったのは篠宮さんの方だよね。

 なのに、なんでそっちが不安がってるのさ


 僕まで不安になるよ。


「ちなみもう禁止だから、ソレ」


 もう彼氏なんだからさ。

 僕たちは正式に付き合ってて、もう恋人同士。


 なのに可愛いってなにさ。

 カッコいいならともかく、そういうのって良くないと思うんだ。


 だから禁止。


「あと、姉さんの話をするのもダメだから」

「へっ? それも……?」

「うん、当然だよ」


 どうして人の姉をそんなに気にしてるのは分からない。

 だけど篠宮さんは僕の彼女なんだ。

 だからいい加減、僕に集中しなよ。

 姉さんじゃなくてさ。


「いい? 篠宮さん。今度言ったら指だけじゃ済まさないから」

「う、うん……」


 コクリ


 どうやら納得してくれたみたい。

 うん、僕の彼女は良い子だね。


「じゃ、付き合って初登校で遅刻するのはアレだし、行こう」


 学校へ。

 まあ所詮は終業式だから午前中で終わるんだけどね。


 そして3時間後、みんなニッコリ、冬休み──


「んっ」


 スッ


 ん?


「手。付き合ってるんだから、当たり前だよね」


 篠宮さん、


「そうだね」


 ギュッ


「じゃっ、行こっか。冬木くん!」

「うん」


 ダッ!



 ──篠宮さんは言ったよね。

 自分じゃダメだとか、資格がないとか。


 そんなの関係ない。

 好きって気持ち、一緒にいたいって気持ちが一番大事なんだって。

 

 他の誰でもない、僕がいいんだって。

 そう言ってくれた。


 おかげで動き出した気がしたんだ。

 7年前のあの時から、ずっと止まっていた僕の時間。


 それがやっと。


 救われたの僕の方だよ。

 ありがとう、篠宮さん。

 これからは篠宮さんが好きって言ってくれた自分に自信を持つよ。

 

 篠宮さんは言ったよね。


 助けてくれたのが僕でよかったって。


 僕もだ。




 好きになったのがキミで、本当に良かった







 ~おしまい~



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