第34話 振り返らない

 そして、

 今日も一日、学校が僕を束縛する。


 教室の前のにあるドア。


 ……うん、入る。


 ガラッ


 そのまま僕の席まで、直進。


「──あっ、おはようっ! ふゆ……っ⁉ ふ、冬木くん⁉」


 席に座って荷物を、ゴソゴソゴソ。


「ちょっと冬木くん! その怪我! 一体どうしたのかな⁉」


 この人は隣の席の篠宮さん。

 朝から早々、僕を見て驚いてる。


 たしかに今の僕、頭はもちろん、至るところに包帯をグルグル巻いてる。

 はたから見てもかなり痛ましい惨状だと思う。


 でも、


「別に」


 なんでもない。


「なんでもないって、なにそれ……昨日学校を休んだと思ったら、こんなに傷だらけになって……何もないなんて、そんなのあるワケないよ」


 別に、ただボコられただけ。

 通りすがりの不良たちに、集団暴行を受けただけだから。

 本当にそれだけ。


 篠宮さんは無関係。

 目撃者でも被害者でもない。

 そう、ただの部外者。


 だから、気にしないで。


「顔もすごい腫れて……ちょっと失礼するよ」


 スッ


「っ……やめて!」


 パシッ!


「いっ……⁉ えっ、冬木……くん?」

「ほっといて」


 ぼくのことはいいから。

 もう終わったことだから。


「……ごめん」  

「う、ううん、私の方こそごめんね。急に触ろうとして……」


 ──キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


 一時間目はたしか……数学。

 うん、早く準備しなきゃ。




 ──4時間目の授業が終わって、お昼休みの時間。


「冬木くん、あの、一緒にご飯……」


 スッ


 今日は外で食べようかな。

 天気も良いし、風もそんなに強くない。

 一人で食べるには絶好のお弁当日よりだと思うんだ。


「そう、だよね……ごめん」


 僕は振り返らない。



 ──今日も一日終わって、下校の時間。


「あの……冬木くん、一緒に帰──」


 荷物を素早く詰め込んで、


 サササッ、スッ


 それじゃ、僕はこれで。


「あっ……」


 振り返らない。



 ──次の日、またお昼。


 今日は屋上前の階段で一人ご飯。

 よし、行こう。


「──待って!」


 ガシッ!


 ……また篠宮さん。


「なに? 放してよ」


 腕が痛いから。

 あとそんなに思いっきり掴まないでよ。

 自力じゃ振りほどけないから。


 そんなことしたって、僕は振り返らないよ

 

「なんで無視するのかな? 昨日からずっと……いい加減にしなよ」


 僕を握る手が震える。


「たしかに昨日のことは私が悪いと思う。でも、それにしたって……そろそろ機嫌を直してくれても──」


 グイッ、グイッ


 振りほどけない。


「冬木くん!」

 

 ……くっ


「僕に触らないで!」


 パシッ!


「えっ……」


 払った手が、思ったより痛い。


 ……ごめん。


「もう僕に関わらないで」


 篠宮さんとは、これでおしまい。


「そ、そんな……」 


 そういうワケだから、僕はこれで。


「ま、待ってよ冬木くん! 私、なにかした……?」


 『篠宮と関わるな』


 ズキッ


 ……っ


「別に」


 何も。


「そんな……冬木くん、なんで……」


 去り行く僕。


「なんで……」


 その背後からは、何かが崩れる音がした。

 ……ような気がする。




 ──それからも、篠宮さんは僕を心配して色々話しかけてきた。

 こっちの顔色をうかがうように、不安そうに。


 だけど僕は全部無視した。

 ご飯も食べなくなったし、1人で帰るようになった。


 そっけない返事や聞こえないフリ、あるいは逃亡。

 僕のことは放っておいてください、話しかけないでください。


 とにかくそういう雰囲気を出し続けて、ひたらすら関係を断つことに徹した。


 そうやって関わらないように、篠宮さんを避け続けて、一週間。



 ついには篠宮さんは、僕に話しかけることはなくなった。

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