第28話 番犬篠宮さん

 そして、お昼休みは終わり。

 

 教室に戻ってきたけど……はあ。


 イライラ、イライライラ


 なんでそんなに機嫌が悪いのかって?

 決まってる。

 だってあの人に、〰に、姉さんのサンドイッチを横取りされたから。


 僕の様子を見て流石にまずいと思ったのか知らないけど、あの後、綾瀬先輩がお詫びとしてあんぱんをくれた。

 だけど全然釣り合わない。

 そもそもいらない。


 はあ、これじゃブルベリーの感想が言えないよ……

 ごめん、姉さん。

 なんで僕が罪悪感を覚えないといけないんだ。


 このイライラは、そう。

 ゲームで理不尽な場面に出くわした時の、あのイライラと似ている。

 あのどうしようもない、発散する場のない、納得のいかない感じ。


 うん、すっごいイライラするよ!

 ボクユル!


 テトテトテト

 

 ──んじゃ、またなしのぶ!


 ──うん、またね! 明代ちゃん!


 ──……おっと、あっそうだ。彼氏君にもよろしくな!

 

 ──あ、明代ちゃん、だから冬木くんとはまだ……


 ──いやいや〜、それは無理というモノがありますよ篠宮氏~。あれはどこからどう見てもピッピ。もうこれですよっ! これっ!


 ──その手の形は何なのかな? もう~っ、友ちゃんまで~


 ──ハハハッ! 下品だぞ友子


 ガラッ


 あっ、篠宮さんだ。

 篠宮さんがお友達と一緒に戻ってきた。


 そのまま友達とバイバイして、僕のところもとい、自分の席に帰ってくる。


 ガタッ、ポフッ


「もうっ、2人とも……あっ、冬木くん、どうだった? 良い場所を見つけたって聞いたけど」

「あっ、篠宮さん、それが……」


 今回もダメでして……


「ん? う~ん……」


 あっ、なんか怪しみの目。


「な、なに?」

「……ちょっと失礼するよ」


 スンスン、スンスンスン


「ちょ、ちょっと、篠宮さん……」


 篠宮さん、急に僕に顔を近づけて……

 子犬みたいに鼻をとがらせてクンクンって。

 ぼ、僕の匂いを直接嗅いでる……


「く、くすぐったいよ……」


 なんで急にこんな……

 そんな堂々とこられたら、僕は……


 スッ


 あっ、離れた。


「やっぱり! 綾瀬先輩の匂いがするよっ! 冬木くんっ!」

「ええっ⁉」


 なんで分かるのさ⁉







 ──そして、4日後の金曜日。

 またお昼の時間。

 今日は篠宮さんと一緒に食べてる。


 篠宮さんとの昼食?

 うん、楽しいよ。

 話は普通に弾むし、ご飯も食べやすいし、周りからの白い視線も感じない。


 何より居心地がいいんだ。

 居心地の良さがもう全然。

 どこかのサンドイッチ泥棒と違ってね。


「それでね。実はいま口に中に口内炎ができてて~、たまに血の味がするんだよ~」

「うわ、痛そう……うちに口内炎の薬あるからさ、良かったらいる?」


 まあ、塗ったところで痛いのはさして変わらないけど。


「お薬? 冬木くんは何を言ってるのかな? そんなの塗る必要ないよ」

「えっ、でも痛いんじゃ……」


 血の味がするのはまずいと思うんだけど。


「ううん。だって、口内炎って気持ちいいよね?」

「へっ? 気持ちいい?」

「そうだよ、イタ気持ちいいっていうのかな? それでつい舌で触っちゃうから、余計悪化しちゃうんだよね」


 ──ガラッ!


「ねえ、冬木くんもそうだよね? 口内炎ってイタ気持ちいいよね?」

「いや、違うけど……」

「……そっか。明代ちゃんたちも同じ反応だったけど、冬木くんは私と同じタイプかな~って」


 いや、そんなワケ──


 タッ


「──やっ、来たよ、冬木君」


 あっ、泥棒。

 じゃなくて、綾瀬先輩。

 今日も悪びれもなく僕のところに。

 

 相変わらず元気だね。


「今日は教室にいたんだ……って、あれ?」


 その反応……


 フッ、だろうね。

 なんせ先輩からすると、いつもと違う光景だから。


「あれ? 今日はたしか金曜のはず……」


 なのになんでこの子がいるの?

 みたいな顔してるね。


 キッ!


 ……って、うわっ

 し、篠宮さん……

 先輩をきつく睨んでる……


 事前に言ってたけど、すごい。

 年上、先輩相手に一切怯んでない。

 普通はちょっとためらいとかあるはずなんだけど……

 臆することなく敵意をむき出してる。


 キッ!


 そもそも、なんでこうなってるのかって言うと……


 今日は金曜日。

 月曜日はアレだったから、水曜日は屋上前の階段で食べてたんだけど……

 ごめん、また綾瀬先輩に見つかっちゃった


 なんか調子に乗って肩までくっつけてくるし。

 日に日に過激になってるっていうか、ゴリ押しで距離を縮めてくるんだ。

 もう男子トイレで食べるしか、いや、流石にそれはちょっと……


 それで、1人で食べるのは根本からマズいって結論に。

 だから対抗手段として、これからは篠宮さんが付き添いで警護してくれることに。


 そうだよ。

 毎日一緒に食べることになったんだ。

 学校にいる時は篠宮さんと常に一緒。

 友達からの許可もちゃんと下りてるらしい


 ちょっとやり過ぎな気もしなくもないけど、僕にとっても悪い話じゃない。

 なんせずっと篠宮さんといられるんだ。

 うん、こればっかりは先輩に感謝するよ。


「冬木くんは絶対渡しません! 私たちの邪魔をしないでくださいっ!」


 ギュッ! 


 し、篠宮さん、そんなハッキリと……

 僕の両肩をもって、僕を先輩に近づかせないよう自分のところに引き寄せる。

 まるで悪い男から彼女を守るカッコいい彼氏みたいに。

 

 なにこの凛々しさ、イケメン?

 この行動力、そしてこの度胸。

 頬が当たりそうなくらい近い。


 本気度がすごい伝わる。

 もし僕が女の子だったら、これだけでキュンときちゃうよ。


「え、えっと……」


 先輩も面食らってる。

 分かるよ、言葉が出ないんだよね。

 流石にこれは先輩でも予想外って感じだ。

 

 ……若干引いてるようにも見えるけど。


 篠宮さん、ずっと威嚇してる。

 先輩が立ち退くまでこうするのか。

 なんだか番犬みたい。


 グルルルル……



 これは……

 うん、ポチ宮さんだ。

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