第26話 綾瀬先輩
「冬木くんっ! さっきのアレは一体どういうことなのかな⁉」
「落ち着いて篠宮さん、篠宮さんが思ってることとは違うから」
今はまだお昼休み。
綾瀬先輩が帰ったあと。
今度は篠宮さん。
それで、今はさっきのことについて、篠宮さんから尋問を受けてる真っ最中。
先輩とはどんな関係になのか、どのくらい進んだ仲なのか、一体何を話していたのか。
とかとかとか、しつこく問いただされてるんだ。
はあ……ほらっ、やっぱりこうなる。
だから嫌だったんだ。
篠宮さんに思いっきり勘違いされてる。
これはそれも全部、そう、あの綾瀬先輩のせい。
うん、僕は許さないよ。
「聞いて篠宮さん、ホントに違うんだ。ただ先輩が勝手に僕のところに来て──」
「違わないよ! 冬木くんっ! あの人が誰なのか分かってるのかな⁉︎」
「誰って、3年の綾瀬先輩だけど……」
3年2組
ん、ちょうどこの真上にある教室の住人。
「そうだけど違うよ! あの人は
「あの人が、そうなんだ」
なんか随分と盛られたスペックだね。
たしかに顔は整ってるとは思うけど……校内1位?
そうかな?
ごめん、ぶっちゃけ篠宮さんの方が断然可愛い。
そっか、ちまたの男子たちの間ではああいうのが人気なのか。
まあ、たしかに美人だとは思うけど、みんな変わってるね。
「だけどね、悪い意味でもまた有名な人なんだ」
「悪い意味?」
「そう、実は綾瀬先輩って、これまで何人もの男と付き合っててね。男を何度もとっかえひっかえしてる」
「へえ、なんかすごい」
「新しい彼氏ができたかと思えば、一週間後にはまた別の人といるってこともザラじゃない」
「飽きっぽいのかな」
なるほど、うわさに聞く男好きってヤツか。
男遊び、男癖が酷いんだね。
「しかもね、なぜか決まって付き合ってる人ばかりを狙うんだよ。あえて彼女持ちの男を誘惑してって……そう、略奪してくるんだよ! 人の彼氏を! もう最っ低だよ!」
篠宮さん、急に感情が……
「ねっ? 冬木くんもそう思うよね⁉」
「う~ん……」
そっか。
あの人、ビッチなのか。
アレかな? 隣の芝生は青い的な?
他の人のモノは無性に欲しくなる。そういう人?
「もうっ! 食堂から戻ってきたら、冬木くんがそんな人と一緒にいるんだもん。私すごいびっくりしたよ!」
たしかに。
あの仕草、あの表情、やけに小慣れてる感がある。
普段からああやってターゲットの男子にアプローチしてるのか。
にしてもアレはちょっと露骨過ぎる気が……
どこか演技臭いって言うか、狙いすぎ。
正直、引っかかるの方もどうかと思う。
だけど篠宮さんいわく、綾瀬先輩の毒牙にかかって、破局したカップルが跡を絶たないらしい。
一度壊れた関係。
その修復は限りなく不可能に近い。
女子からしたらたまったモノじゃないよね
うん、男はいつも自分勝手。
「そうだよ。だから冬木くんもホントに気をつけなよ」
この学校にそんな人がいたなんて。
ここに来て色々あったけど、やっぱり私立って末恐ろしいところ。
ギャルが見当たらないから甘く見てた。
「それで、今度は僕が狙われてるってことでいいの?」
僕、綾瀬先輩にタゲられてる?
「それは分からないよ。だけどその可能性は大だろうね」
「そっか」
それは困る。
僕って篠宮さん一筋だし。
「いや、待って。単に冬木くんが可愛いからっていうのも可能性も……うむむ、どっちなのかな」
いや、何その二択?
僕が可愛いからって、むしろそっちの方が嫌だよ。
「でも仮にそういうことだとしても、なんで僕なのさ?」
だって僕、付き合ってる人なんていない。
ここに来てから、っていうか人生で彼女がいたことなんて一度も……
「……あっ」
まさか、
「そう、たぶん私だね」
「な、なるほど……」
そういうことか。
歯車が、カチッ
「僕と、篠宮さんが……」
「う、うん……」
な、なにこれ。
すごい気まずいんだけど。
篠宮さんの顔をまともに見れないよ……
そっか。
僕たち、そう思われてるのか。
まあ、言われてみれば確かにそう。
実際問題、ほとんど一緒にいるから。
篠宮さんが塾の日以外はほぼ一緒に帰ってるワケだし。
自分で言うのもアレだけど、結構イチャついてるし。
そう思われてもおかしくない。
3年生の綾瀬先輩からでもそう見えるってことは、クラスの人からはもちろん、周りからも……
あれ? 僕ってはたから見ると、結構……
「はあ、私は嫌だよ、冬木くんが別の女の子とお付き合いするなんて……」
篠宮さん、大きなため息。
僕が先輩に取られるのが不安なんだね。
「大丈夫だよ。僕は他の人のところに行ったりしないから」
先輩にくら替えしたりなんかしない。
なんたって篠宮さん一筋だから、浮気とかは絶対。
そうするくらいなら死を選ぶ。
それくらい僕の愛は重いんだ。重すぎ?
「だからそんな顔しないでよ、篠宮さん」
「はあ、でも綾瀬先輩、私よりずっと美人だし……それに冬木くん、ああいうグイグイくる系のお姉さんには弱そうだし。いくら奥手な冬木くんでも不安だよ……」
お、奥手……
ごめん、篠宮さん。
そう言われると認めるしかないよ。
でもさ、これでも最近は結構頑張ってる方なんだ。
この前もそうだけど、なるべく自分の方から攻めるようにして……
でもそのお姉さん系に弱いって言うのはなに?
何をどう考えたらそう結論づくのさ?
アレだよ。
篠宮さんで言う、『今のはちょっと聞き捨てならないかな! プンプンプン!』ってヤツ。
……ごめん、ちょっと悪ふざけ。
でもたしかに、篠宮さんの言う通りかもしれない。
向こうは1年先輩、しかも何人もの男を手ごまにしてきた魔性の女。
おそらく僕とは経験値が比べモノにならないはず。
ここは警戒した方がいいかもしれない。
それに、大丈夫だって言う男ほど、案外コロッといかされるモノなんだ。
姉さんの持ってる少女漫画でそういうの読んだことがある。
さっきやった上↑でのやり取りなんて、まんまそのフラグだし。
そもそもこういう時、自分は大丈夫だって思わない方が良い。
人の脳は混乱を防ぐためにそう思い込もうとする機能がある。
危機感の欠如。
正常性なんとかが掛かってるって、校長先生が長い演説で言ってた。
うん、だから慢心だけはしない。
そんでもって、綾瀬先輩の誘惑をなに事もなく振り切ってみせる。
案外ちょうど良かったのかもしれない。
僕がそこら辺の男とは違うってことを、篠宮さんだけじゃなく周りにも証明する。
そうだよ、篠宮さんからの信用を勝ち取るんだ。
「はあ、最近教室に戻ってきたら、私の席が妙に暖かいな~って思ったら、まさかあの綾瀬先輩に使われてたなんて。私はてっきり冬木くんがこっそり座ってるんだとばかり……」
「僕が篠宮さんの席に? なんでそんなことを?」
「ううん、なんでもないよ。今のは気にしなくていいから」
これは、なんか誤解されてる?
「やめてよ篠宮さん。僕はそんなことしない」
なにも変態じゃないんだからさ。
「なんだったら、次から綾瀬先輩には座らせないように──」
「んー」
……って、
「な、なにしてるのさ」
篠宮さん、
急に目を閉じて、僕に近づいて、
こ、これじゃまるで……
「んっ、なにって、そんなの決まってるよ。消毒だよ。さっき綾瀬先輩に頬をやられたよね。だからその消毒をって……」
ズイ~
「い、いいよ」
何もそこまでしなくても……
「ダメだよ。たとえ頬だろうとキスしたことには変わりないよ。先輩にやられたところを私で上書きしとかないと」
なにそれ……
「い、いいって……」
「んっ、大人しくしなよ」
周りが見てるから……
「冬木くんのほっぺは渡さないよ」
篠宮さん……
ちょっとムキになり過ぎなんじゃ……
自分が何をやってるのか分かってる?
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