第19話 おすすめ紹介②

 今は篠宮さんと一緒に下校中。

 雨とかは特に降ってないから、普通にダベりながら帰ってるよ。


「物語の冒頭で、白いローブを着た数人が、悪魔契約の儀式をやってるところから始まるんだけど」

「えっ、ちょっと待って冬木くん。それってホラー映画なんじゃ……」


 いや、違うよ。


「本来は自分たちの崇拝する悪魔を復活させようとしてたみたいなんだけど、何か不具合で太古の恐竜を呼び出しちゃうんだ。しかも霊体でね」

「へっ? 恐竜の、お化け?」


 そう、ティラノサウルスの悪霊。

 生前、餌にありつけず餓死した怨念。

 ゴーストサウルスだよ。


「これは現代に召喚された恐竜が、呪怨の続く限り街を暴れまわるって、そういう物語なんだ」

「えぇ……なにそれ」

「人の幽霊がいるなら、動物、恐竜の幽霊がいても何らおかしくない。これはそういう発想の元で制作された映画で」

「おバカ映画かな? ふざけてるよ、その脚本」


 まあ、その辺は、ね。


「とにかくすごいんだ! ゴーストサウルスは霊体だから、家に隠れても透き通って襲ってくる! 霊感がない人には見えないから、何もないところからいきなり上半身がガブッてなったり」


 不気味に周囲を揺らす足音。

 地面にくっきりつく巨大な足跡。

 耳を裂くような咆哮は聞こえるけど、目の前に何もいない。


 真夜中、建物に浮かぶ世にも恐ろしい影。

 その実態の見えない分、恐怖がすごくて、すっごいスリリングなんだ。


「作中でも成仏させてようと色々やるんだけど、恐竜だからね。宗教概念とか全くないからそういうのは全然通用しない」

「またみんな死ぬのかな?」

「いや、今回はそんなことはないよ。その辺りは前回で学習済み」


 まあ、ヒロイン関係なく結構な人が食べられるけど。

 日本人の優秀な祈祷師が捕食されるところなんてさ、その演出も合間ってもう最高なんだ!


「じゃあ、どうするのかって言うと、悪霊には悪霊をぶつけようってことで、天敵のスピアノエジピアスを……って、おっと。ここからネタバレだからやめておくよ」


 続きはぜひ、キミの目で確かめて欲しい。


「B級だけど面白いよ。CGに気合が入ってて、迫力も結構あるし」


 一応ホラー作品として出されてはいるんだけど、どちらかと言えばモンスターパニック系。

 怖いとかそういう感じじゃないから、ホラーの苦手な篠宮さんでも大丈夫だと思うよ。


「続編の製作も決定されてるし。どうかな? これを機に篠宮さんも予習を兼ねて──」

「見ないよ」

「えっ、でも篠宮さん、別に恐竜が嫌いってワケじゃ」

「見ないよ。そんな設定からして氾濫してるような作品は見ない。カレーかチャーハン、作るならどっちかにしなよ」

「そっか……」


 面白いのに、残念。


 今回は食いついてくれると思ったんだけど、ダメだったみたい。

 若干不機嫌な感じになってるし。

 ちょっと一緒に歩きづらいかも。


「はあ、やっぱり冬木くんって変わってるよね」


 いや、誰かさんには負けるよ。


「それとも男の子ってみんなそう言うのが好きだったりするのかな?」


 さあね。

 友だちいないから分からない。

 誰か教えてよ。


「……ねえ、冬木くん」

「なに?」

「冬木くんってさ、その、幽霊とか信じてる?」


 ん? 幽霊が実在するかどうかってこと?

 そんな、僕、霊感とかは特にないから分からないけど、


「うん、僕は信じてるよ。幽霊」

「見たことないのに?」

「だからこそだよ。いないとは断定できない。そうでしょ?」

「なんで私に聞くのかな? 知らないよ」

「そもそも幽霊って、国や地域によって価値観とか色々と変わってくるんだ」


 日本では怖い存在として扱われてるけど、海外では必ずしもそうとは限らない。


 例えば昔、海外でとある実験があってさ。

 ある部屋に、実験者が数人。

 1人ずつ決められた時間入ってもらう。


 その部屋にはあらかじめ、「ここには幽霊がいる」ってことを事前に伝えてある。


 それで、部屋に入った実験者は誰一人として怖がる様子は全くない。

 むしろ自分から話しかけるくらいお気楽なんだ。

 中は真っ暗で何も見えなくて、明らかに出そうな雰囲気なのに。


 今度は反対に、全く同じ部屋で「悪魔がいる」って伝えたら、それはもう滅茶苦茶怖がるんだよね。

 真っ暗な部屋で終始怯えて、ちょっと物音がしただけでもう大絶叫。

 部屋には何もいないのにこの違い。


 ヨーロッパでは悪魔が恐れられている。

 だけど幽霊はそれほど恐れられてはいないんだ。

 むしろご先祖様に会えるかも~みたいな感じで好意的でさえあったりする。


「実際問題、日本には悪魔なんていないでしょ? 怖いのは全部幽霊、悪霊の仕業ってことになってる」

「えっと、つまり、幽霊とか悪魔は、人間が勝手に作り出した妄想で、本当はいないってこと?」

「そう捉えることもできるよ。だけど、ただ単に宗教や価値観の違いで呼び方が変わってるだけって可能性もある」


 『悪魔』は日本で言う『悪霊』

 『悪魔祓い』は『御祓い』

 呼び方や対処の方法は違うけど、やってることはほとんど同じ。


「つまり、その国の宗教で色々変わってくるってことは、もしかすると悪魔や幽霊だけじゃなくて、神様も本当にいるのかもしれない」


 宗教や価値観でその人の感じるモノ、見えるモノまで違ってくる。

 なんだか面白いよね。


 もし幽霊や悪魔がいるのなら、それは同時に、その宗教を信仰する神様もいるってことの証明。

 天使とかもそう。


 だってさ、悪魔だけいるんじゃ絶望モノだよ。

 必ず対抗できる存在がいるはず。


「そう考えると何だか面白いよね。そう思わない? 篠宮さん」

「そ、そうなんだ……」


 うん。


「あっ、幽霊を見たと言えば……僕この前金縛りにあってさ。その時に僕の大事な布団が、横から伸びてきた白い手に、サーッて──」

「も、もういいよ! あっ、そ、そういえば、昨日のマジカルマリコがね」



 篠宮さん、すり替えたな。

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