第17話 カツ譲渡戦

 今日のお昼は、食堂。

 もちろん篠宮さんと一緒。

 テーブルを向かい合わせにして食べる、いつもの光景。


 それじゃ、さっそく目の前にあるうどんを


 パンッ


「いただきます」


 スッ


 ……って、んん?


 うどんの中に、カツがやってきた。


 なに今の?

 僕がうどんを食べようとしたら突然、前方からカツ丼のカツの部分を持ったおはしが出現。

 そのままうどんの中に入り込んできた。


 こ、これは、


「篠宮さん?」


 あの、キミのカツが一つ僕のところに……


 スーン


 無視だ。

 篠宮さん、いま僕にやったことをまるで知らない風に装ってる。

 カツ丼を食べてる。

 何も言わずただ黙々と食べ進めてるよ。


 あの、僕、別に食べたいだなんて一言も言ってないんだけど。

 自分が頼んだんだから自分で食べればいいのに。

 なんでわざわざ僕に……


 いや、たしかに小学校の給食の時に、よく僕のおかずをかっさらっていく怖い女子がいたけど、今回はそれの逆版。

 むしろ篠宮さんの方から差し出してくる。


 篠宮さんってさ、その、そういうことするんだ……

 一体どういうつもりなんだろう……

 

 あっ、うどんの汁を吸って変な味になっちゃう。

 うどん本体もカツと混ざって濁っちゃうし


 うどんとカツ。

 お世辞にも良い組み合わせとは言えない。


 ……仕方ない。

 早く食べないと。


 サクッ


 あっ、意外と美味しいかも。


 サクッ、サクッ


 うん。




 そして一週間後、また食堂。


 ススッ


 篠宮さん、まただ。

 僕がいただきますをした途端、何気なくカツを放り込んでくる。


 しかも今日は2つ。

 5個あるうちの2個を僕に分け与えてきた。

 さも当然かのように。


 なに? もしかして日に日に数が増えていくとかいうホラー展開?

 でもそれだと、いずれ篠宮さんのカツが……


「あの、篠宮さん……」

「早く食べなよ。うどん、冷めちゃうよ」


 困惑する僕を置き去りにして、一人無言で食べ進めてる。


 えっ、なにこの、なに?

 謎のごり押し感は一体……




 さらに1週間後、ごめん、また食堂。


 ……スッ


 ピキーン! 来た!


 させないよ!


 バッ!


 僕の手でうどんをガード。

 篠宮さんのカツを摘まむおはしを止める。

 ダメ、今日は異物混入させない。


 篠宮さん、一体どういうつもりか知らないけど、これ以上僕のうどんは──


「なんでいつもソレなのかな?」


 ……へっ?


「なんでうどんしか頼まないのかなって聞いてるんだよ。言っとくけど、ここはうどん屋じゃないよ」

「いや、なに当たり前のことを……」

「冬木くんが食堂に来て頼むとモノときたらいつもうどんばかり。せっかくカツ丼とか天丼とか色々あるのに……はあ、これじゃ食堂に案内した意味ないよ」


 そこまで言う?

 いや、まあ僕って、お店とかでも基本的に同じヤツしか頼まない。


 アレだよ。

 初めて来店したお店で最初に頼んだメニュー、以後もずっとそれにするーみたいな。

 そういう人って僕以外にもいるよね。


「せっかく来たんだから、もっと色々なモノにしなよ」

「なんでさ? そんなの僕の勝手。篠宮さんにとやかく言われる筋合いはないよ」


 ったく、お母さんじゃないんだからさ。


「ダメだよ、それじゃ栄養が偏って背が伸びないよ。だから私のカツを食べて少しでもって。なのに冬木くんと来たら、少しは私の苦労を分かって欲しいな」


 いや、なにそれ。

 まるで意味が分からないんだけど。


 っていうか今思ったんだけど、篠宮さんだってカツ丼しか食べてないよね。

 僕のタメとか言って何かとイチャモンつけてくるけど、キミだって人のこと言えないよね


「あげる」

「いらない」

「ほらっ」

「いい」

「その手をどけなよ」

「いいってば」


 ちょっとお行儀悪いよ、篠宮さん。

 それに周りにも見られてる。

 今の僕ら、絶対変な人たちだと思われてる


「いいから早く食べよう篠宮さん、僕のうどんが冷めちゃうよ」

「むっ、話はまだ終わってないんだけど」


 少し時間を食ったけど、いただきます。


 ズズズー


 週一のささやかな楽しみ。

 篠宮さんの前ですするうどん。

 これがまた格別なんだ。


 ズズズー


 ……スッ


 ん?


「冬木くん、あ~ん」


 ……何してるのさ。


「篠宮さん、ちょっと……」

「はい、食べな」

「いや、食べなじゃなくて」

「ん~? なにって、冬木くんはこっちの方がいいのかな~って。食べさせて欲しいんだよね? なら初めからそう言えばいいのに」


 なるほど、今度はそう来たか。


「あれれ~? さては冬木くん、前と同じで照れてるのかな~? 可愛い~」


 篠宮さん……

 奥の手を繰り出してきたか。

 こうすれば自分が優位に立てる。

 そう思ってる顔だ。


 ……だけど、


 パクッ


「……あれ?」


 差し出されたカツを半分かじる僕。


 ふん、何を今さら。

 甘い、甘いよ篠宮さん。

 僕たちはアイスを食べ合いっこした仲なんだ。

 今さらこの程度で動じたりしない。ふん、ふん。


 それに篠宮さんってそういうの気にしないんでしょ?

 そっちがその気になら、僕だって気にしない。


「ん、美味しいよ、篠宮さんのカツ。そうだ、お返しに僕のかまぼこをあげるよ」


 今度は僕の番。

 地味に狙ったでしょ? かまぼこ。


「篠宮さん、あ~ん」

「えっ、ちょっ、ちょっと待ってよ」

「なんで? 僕はやったのに。篠宮さんだけやらないなんてそんなの自分勝手」

「それは、そうだけど……」


 篠宮さん、照れてる。

 そうだ、やっぱり可愛いのは篠宮さんの方で、僕じゃない。


「はい、あ~ん」

「……くっ、成長したね、冬木くん」



 そうだよ。

 前回の僕とはレベルが違うんだよ↑↑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る