第2話 スクロールを書いてみよう
翌日、頭痛は治まったが何かが違う。世界が変わったような・・・。同じ風景なのに昨日とは何かが変わった感じがする。窓の外は昨日と変わりはない。
ふと、机に置いたままの魔法陣の写しをみる。
Start
・・・
Loop(Switch=On )
Sw = GetSwitchLevel()
pwA = GetMagicPower(Sw)
If ( pwA > 0 )
OutMagicPower (heating , pwA)
else
Switch = Off
Loop End
・・・
End
※概要:スイッチがONの状態である内は指定魔力量を取得して熱に変換出力する
「コンロはスイッチONの間、魔力を取り出して熱に変換してるのか・・・?」
何となく読める・・・。
え?
手持ちの写しを片っ端から見てみる。
あれ?
読める。読めるぞ!!!
魔法陣はプログラム?
不意に夢の中の男と今の自分がカチッと重なった気がした。
これって前世の記憶?
この世界ではないどこかの記憶が蘇る。
何?
結局、あいつ・・・俺はあの時死んだのか・・・。
でも今の俺はドランだ。不安になる気持ちを振り払う。
しばし茫然として何か落ち着かない。
でも・・・あの状況から抜け出せて良かったじゃないか?
思い起こせば前の世界に大した未練は無い。親より先に死んで親不孝者だったかも知れないけど、きっと会社の皆に迷惑かけたと思うけど、死んじまったらどうしようもないもんね。それに既に十四才だ。十四年も前の事などどうにも出来ない。
暫くとりとめもなく考えて、気持ちを切り替える事にした。
とりあえずは今の生活だ!
そう。今の俺はドランだ。
もう一度魔法陣を見る。
構文は英語に近く数字はアラビア数字。つまり前世のプログラム言語みたいなものが書かれていた。
今まで解読されていなかったのは、この世界の言語との成り立ちが大きく異なっていた事とコピーして使う事が当然と思われていたからか?
例えるならペルシャ語と日本語くらい表記が違う。
自分でも信じられない。
試しに裏庭に有った魔道冷蔵庫を直してみる。
この冷蔵庫は兄がジャンク屋で買い取ってきた物だが動かないので裏庭に放置したものだ。
「構造的にはコンロの冷蔵庫版か。違うのは出力が冷熱という事かな・・・。これなら何とかなりそうだ。」
魔力線と魔法陣の一部文字が削れて欠落している。
魔法陣にはプログラムの構文が直接書かれているので比較的簡単に直せそうだ。
これを一旦紙に写しとり不足部分を補ってから、本体の魔法陣のプレートに刻み込む。
「これで動くハズだけど・・・良し! 動いた。」
調整も大丈夫。
ついでに他の魔法陣を元に調整範囲を変えたり条件を変えたりと実験を繰り返す。
言語的には簡単だ。
だがこれで理解したとはとても言えない。
言語マニュアルも無いしね。関数関係は他の魔道具を参考にするしかないか。
この日以降、打ち捨てられた魔道具や中古品の魔法陣を確認するようになった。
ちなみに新品は中を見せてくれないのが残念だ。
治せる商品が増えたので兄は喜んでいるが結局中古品で細々と食い繋いでる事に変わりは無い。
小遣いもほとんど増えない。
なので思いきって新作を作ってみた。
「兄さん、こんなもの作ったんだけど。」
「うん? これがどうした。」
見せたのは前世のキャンプで使うスキレットみたいな物だ。
この世界でも冒険者用に売られている。
焚き火やコンロでお湯を沸かしたり、食器や鍋変わりにしたりと旅の荷物を増やしたくない旅人の必需品。
俺はこのスキレットにコンロの加熱の魔法陣を書いたプレートを張り付け、冒険者が魔力を流すと加熱してお湯が沸くようにしたのだ。
特徴は火が不要で直接スキレットを加熱する事と、自分の魔力を使うので魔石が不要な事。コンロも不要になって荷物を減らせるのだ。
ちなみに魔法陣への魔力供給方法は大まかに二種類存在する。
魔石から取る手法と使用者の魔力を取得する方法がある。
魔石から取る手法はランプやコンロといった魔道具が多い。人の手が離れても作動してほしい魔道具だ。
使用者の魔力を使うのはスクロールや簡易ランプ(懐中電灯みたいな物)といった手に持って作動させる物がほとんどだ。
実は自分の魔力だけで駆動する魔道具は少ない。その場を離れられない事と、使用者が自分の魔力が尽きる事を嫌うからだ。
このスキレット自体は小型で出力も小さいから大して魔力は消費しない。実験でも連続三時間位使っても少し疲れる位で済んでいる。これを良しとするかは使用者次第だが。
「いくらで売るんだ?」
「一万ギル位・・・」
「うーん・・・難しいな。」
「どうして? 高すぎる?」
「スキレットは安いからな。一万ギルのスキレットなんて中々売れない。魔力も使うしな。それに・・・直ぐに偽物が出回るし。」
「・・・」
確かにスキレット自体は千五百ギル前後で買えるし、火打石で火が起こせるのならコンロも不要だ。
それにこの世界は著作権が存在しないのでコピーし放題。
人気が出ればたちまちコピー品が登場する。
でもね、手間を考えるとこれくらいの値段になるんだよ。気休めでも良いから兄さんも少し位売れると言って欲しいな。
「職人ギルドへ持っていけよ。あそこなら買い取ってくれるぞ。それにお前も来年は成人して一人立ちだ。食い扶持を稼がないとな。」
そうなのだ。
来年十五才で成人になる。この世界では成人は家業の跡取り以外は一人立ちする。
「そうだね。兄さん、ありがとう。」
さて問題は職人ギルドも登録は十五才からなんだな。
*****
仕方無いので薬草採取を頑張ろうかと思ったが、相変わらず森の浅いところの薬草は取り尽くされ、そして森の奥は魔物が出る。
武器は持ってないし、持っていても俺は振り回す事しか出来ないのでダメだろう。
この世界の多くの人は魔力は持っているけど魔法は打てない。俺も魔法は使えない。一部の簡単な魔法以外は魔導師の弟子になるか魔法学校に入るかして学ばないと使えないのだ。
極めて高額な授業料を払えるのは裕福な貴族か商人しかいない。一つの属性でも魔法が使える『魔法使い』や多くの属性を使える『魔導師』はとても貴重な存在だ。
この為か大した魔法も使えない魔法使いでも選民意識が強く冒険者パーティーに属しても傲慢で嫌われる事が多いらしい。
もっとも、ほとんどの魔法使いや魔導士は金持ちの家系なので冒険者になったりはしない。魔法使いで冒険者になるのは何らかの理由で家を追い出された人くらいなものだ。
その魔法を誰でも使えるようにしてくれるのがスクロールだ。
スクロールは紙に書いた使い捨て魔道具の事だ。
魔力消費が極めて少なく、魔法が使えない者でも僅かな魔力で発動出来るのがメリットだ。
初級魔法一発で一枚五千ギル位するが、いざという時の命には代えられないのでよく売れる。
五千ギルは前世の五千円くらい。
「よし、スクロール作るか。」
確か発動せずに返品されたスクロールがあったハズだ。
普段スクロールの魔法陣を見る事は少ない。
丸めた用紙を開いても文字の欠落防止や複製防止に上から別の紙を張り合わせて魔法陣が見えないようになっているからだ。
それに開くときは発動させる時だから基本的に普段は開かない。
使用者は丸めて紐で縛った状態の物を魔道具屋で買っているのだ。
スクロールに蒸気を当てながら慎重に張り合わせた紙を剥がす。
部分的に破れたりして文字が見えない箇所があるけど言語を理解した今の俺には大した問題ではない。ふふん。
このスクロールは土魔法。
自分の1メートル手前から六メートル四方、深さ三メートルの大穴を開けて五秒後に閉じる。襲ってきた相手を穴に落として埋める魔法らしい。
実はこの辺りは商品説明用にスクロールの裏に書いてある。書いたのは職人ギルドの人。
説明書が無いと何のスクロールか判らないからね。
早速書き写して悪い所を修正する。
発動しなかったのは書き損じの様だ。
何せこの世界にコピー機は無いのでスクロールは全て手書きなのだ。
修理は事前に魔石の粉末を溶かしたインクを用意し、このインクに金属棒を刺して自分の魔力を流しておく。
この魔力のこもったインクで魔法陣を書くのだ。
これがスクロールが僅かな魔力で発動する秘密でもある。使用者は自分の魔力を呼び水にスクロール内の魔力で魔法を発動させるのだ。
写しを作りインクで紙に魔法陣を書く。
この時、魔力を流さない事。発動するからね。
翌日、テスト用に穴のサイズを変えたり一部を削ったりしたスクロールをいくつか持って人気のない森に出かける。
一応ナイフも装備。
途中の草原で周囲に誰も居ない事を確認してスクロールを開いて発動させる。
初めはオリジナルと同じサイズの穴が開くはず。
ドンと大きめの音がして瞬時に大穴が空き、直ぐに塞がった。
「おお、計画通り!」
これなら使える。
大小様々なサイズを変えた物も無事動作した。
極小サイズから特大まで。
ただし穴が二百立方メートルを超えると発動しなかった。
初級ではここまでなのかな?
それとも魔力量の問題かも。
よし。これでスクロールの準備は出来たぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます