異世界に転移したら、嫌われ種族『ヴァンパイア』でした。~この世界で生きていくため、そして何より家族を守るためにヴァンパイア種族の復興を目指そうと思います~

@Miyahashi_U

第一章 ~ルバンダート迷宮篇~

第1話『召喚されて』





 黒煙が、上がる。



 息を吸って、吐いて。


 思えば吐ききれずに命が口から零れだす。


 ……ああ、苦しい。


「は、はは……」




「結局、神様なんていないんじゃないか」



 救いなどない。救えるものなどない。


 もとより壊れた器に拾いあげられるものなど何1つとしてなかったのだ。


「……ごめんな」


 仰向けで倒れたまま、横を向けばそこには"家族"の姿。 刻一刻と終わりが近づいている命の灯火。俺はもう手も伸ばせない。


 気付けば地面が光っていた。仰向けには、良く見えない。何かの文様のように見える。


 光が視界を覆いつくす。目を瞑っても光が入ってくる程に強い光だ。お迎えが来たのだろうか。


 もう指1つ動かせない。内側から焼かれグズグズになった内臓が伝える痛みももう感じなかった。



 (……願わくば、皆が安らかに眠れますように)


 ただそれだけを願う。幸せの薄い人生だったけど、それでも信じられるのは家族だけだったから。


 もう何も見えない。唐突な浮遊感が俺を襲う。それを感じる間もなく俺は意識を手放した。





















「と言うわけで、そなたらに我らと共に帝国と戦ってほしいのだ」







「……は?」



 気付けばどこかの部屋にいた。まだ意識がぼんやりとしている。霞がかった意識のまま辺りを見渡してみれば部屋の内装は無駄に豪華でどこぞの王城のように見えた。目の前に立って、最初に俺に話しかけてきたのは赤い豪奢なマントを羽織った恰幅のいい男。……端的に表すなら"王様"だった。


「な……にが……」

「む?……まだ意識がはっきりしておらぬようだな……レイナ!この者に水を!」

「かしこまりました」


 王様(暫定的にそう呼ぶ)の後ろに控えていた秘書らしき女性が命を受けてその場を離れる。それのやり取りを一通り見てからもう一度辺りを見ると、何人かの大人たちがこちらを見ているのが見えた。

 恰好は様々で貴族のような奴、魔法使いみたいな奴、メイドや執事らしき人もいる。……そして、


「!……アキラ理央リオソラ!」


 俺と同じように地面に横たわっている"家族"の姿。急いで駆け寄って揺する。元々目が覚めかけてたのか俺が揺らしたら三人は直ぐに目を覚ました。


「……グ……う……ミドリか……?」

「ああ、わかるか?」

「何とか……理央と空は?」

「そこにいる。二人とも大丈夫か?」


 同じように残り二人も揺り起こす。二人が目を覚ました所に先ほど消えた秘書が水を持ってやってきた。


「これを」

「ありがとうございます……」


 皆が受け取ったのを見て俺も水を受け取り飲む。思った以上に喉が渇いていたのか流れ込む水の冷たさが気持ちよかった。


「……ふむ、もう大丈夫かね?」

「ええ、助かりました。えっと、貴方は……」


 まだ俺以外の三人は意識が混濁しているだろう。最初に起きた俺が話を聞くべきだと思い王様の呼びかけに答えた。


「私はここアルサローム王国領の国王、ヴァネッサ・エルレイズ・アルサロームである」


「はぁ……」


 王様はやはり王様だったらしい。


「……状況がつかめないといった顔だな。無理もない。儂がそなたらをここに呼び寄せたのだ」

「……何故?」

「理由であれば最初に話した通りだ、我々と共に帝国と戦ってもらいたいのだ」


 意味が分からない。俺たちはしがない高校生だ。誰かと殺し合いなんてしたことないし、照以外は腕っぷしも強くない。

 それが何故……


「……すまないが一度休ませてくれないか。まだ頭が混乱しているんだ」

「照」


 照がそう言って王様に提案した横目で見れば理央と空も黙って王様の方を見上げている。


「ふむ……それもそうであるな。いいだろう。30分後にまた場を設けよう。レイナ」

「かしこまりました。……皆様、こちらへ」

「助かります」


 秘書が俺たちを先導するように歩き出す。それに従ってついていく。部屋を出る間際周りで俺たちを見ていた人たちに目を向けると値踏みするかのような目をしていたのが印象に残った。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「……とりあえず、現状を把握しないとな」

「そうだな……理央、空。落ち着いたか?」

「うん」

「なんとかな」


 どこかの一室に連れられて、俺たちだけになってから話し始めた。


「ここ、どこなんだ?王国がどうとか言ってたけど……」

「わかんねぇ。聞いたこともない地名だ」

「……私も、聞き覚えがない」

「……と言うかそもそもだよ」


「俺達、あの時確かに死んだよな?」



『……』


 照のその言葉に全員口を閉じる。……そうなのだ、確かに俺は死んだはずだった。



「……そうだよな、デパートの火災に巻き込まれて……それで」

「崩れてきた瓦礫に潰されて死んだ……はずだ」

「……うん」


 思い返せば、腕が震えている。あれほどまでに間近に死を感じたのは初めてだった。


「……まあ、分かんねえことだらけだけどさ」


「取り敢えず、生きててよかった」


 照がホッとしたように、笑顔でそう言った。俺たちもつられて小さく笑う。


「そうだな、違いない」


 死んだと思った"家族"が生きてて、嬉しくない奴なんていない。誰からともなく俺たちは抱き合って、その喜びをかみしめた。


「……良かった。良かったよ。みんな、死んじゃったかと思ったから……」


 この中では最年少の理央がそう言って抱き合ったまま泣きじゃくる。仕方ない。彼女には俺達しか味方はいなかったんだから。


「ほらほら、泣くな理央」

「だって、だってぇ……」

「おいおい相変わらず泣き虫だな、お前はよ!」

「ぐすっ……空に言われたくない。昔は空の方がよく泣いてた」

「小学校の頃の話だろそれ!」

「はは、別にいいじゃないか、泣き虫でも」

「違いない」


 そんな風に自分たちの存在を確かめ合って、やがて離れる。さあ、これからは現実と向き合う時間だ。


「……そろそろ30分か」

「そうだな、聞かせてもらうか。俺らがこんなところにいる理由を」


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