第56話 「それとも」

 ベルゼを取り囲うように真陽留、音禰、カクリが立ちふさがる。腕を組み、皆怖い顔で腕を組み見下ろしていた。


「なんでお前らがそこまで怒る」

「相想が怒らないから代わりに怒っているの」


 その場で一番の被害者であるはずの明人は、逆に呆れ肩を落としていた。


「俺の怒る隙が無かっただけだけどな」


 明人が言うように、彼が何か言うより早く三人が動き出しベルゼを責め始めたため、明人自身が怒る隙が無かった。


「はぁ、なんとために俺は今まで面倒なことをしていたんだ……まぁ、いいが。それより、今後についてだが──……」


 明人は今後についてみんなに伝えた。

 その内容は、全てを納得はむずかしかったが、それでも今の段階では一番効率的で、一番現実的な方法だった。そのため、最初反対していた音禰と真陽留は、最終的には頷く事しか出来なくなり、渋々了承した。


 ☆


 洞窟の出来事から三年の月日が経った。

 真陽留はもう織陣真陽留おじんまひると名乗っており、音禰は今までと変わらず神霧音禰しんむおとねと名乗り、生活をしていた。


 音禰は戻ることの出来た家族と共に生活し始め、真陽留には一人暮らしを始めていた。


 元の生活に戻った二人だったが、音禰が半月後、真陽留の住むアパートへ移動し同居生活かいし。二人でお金を貯め、今では大きな家へと引越しともに生活をしていた。


 お互い幼馴染、友人という関係のまま。


 真陽留は人と接する事が得意なため、今ではある有名なケーキ店で働いていた。

 有名店なだけあって何時でもお客様がおり、冬なんかは特にお客様の列が途切れない。


 雪が降ると外を眺めながら真陽留は顔を青くし「地獄の始まりだ」と呟くのが毎年の恒例になっているのだが、今の季節は秋。そこまで忙しくないらしく、余裕そうに仕事へと向かっていた。


 音禰は事務仕事をしている。

 パソコンを扱うのが思っていたより得意だったらしく、少し教えてもらっただけで普通に出来るようになった。

 仕事内容も直ぐ頭に入り、今では周りから期待されている逸材となっている。


 そんな二人は、今商店街を買い物袋を手に持ち歩いていた。


「もう忘れ物はないかな」

「ないだろ」

「適当だなぁ。今日はすき焼きだよ、早く帰って準備して食べようよ!!」

「また太っても知らねぇからな」

「そう言うの本当に良くないと思う!!」


 二人は楽し気に商店街を歩く。周りは人で賑わっており、高校生、親子、ママ友。色んな方とすれ違いながら、話しながら歩いていた。


 二人が商店街を出て真っ直ぐ進んでいると、大きな病院に辿り着いた。

 そこは三年前、音禰が入院していた病院。二人はそこで一度立ち止まり、病院を見上げた。


「この病院。何で私は三年前、この病院で入院していたんだろう」

「俺も、何か忘れている気がするんだよ。大事な、忘れてはいけない、何かを」


 音禰と真陽留は目の前に建っている病院を、沈痛な面持ちで見上げていた。

 見た目は普通の病院で、何も変わったところはない。患者の出入りもそこまで多い訳ではないが、少ない訳でもなかった。


「うん、私も同じ。思い出さないといけない気がするのに、思い出せない」


 二人はその後病院を見上げたまま考えたが、何も思い出す事が出来ず、仕方なく自身の家へと帰って行った。



 二人の記憶には、真陽留が魔蛭だった頃や洞窟での出来事。明人やカクリについても、きれいさっぱりなくなっていた。



 そんな二人の後ろを子狐とコウモリが二匹、影に隠れながら観察するような目でジィっと見ていた。


「おい、本当に何も言わなくても良いのか?」

「仕方がないだろう、明人が何も言うなと言うのだ。私達は見守る事しか出来ん」

「暇だっつーの」

「それも仕方がないだろう。もう少しで私の力も切れてしまう。また新たに力をかけるか、それとも──」


 コウモリと子狐はそのような会話をしたあと、周りに気づかれないようにそっと姿を消した。

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