第15話 「無理やり黒くすることも可能」
「明人、明人よ!!」
「なんだ」
「説明をしてほしいのだが?」
先を歩く明人にやっと追いつき、カクリが見上げながら問いかける。
今はまだ林の中。周りに人がいないため、聞かれたくない話をするなら今。
林を抜けてしまうと、人のいる道に出てしまう為、カクリも気楽に話す事が出来ない。
カクリは口を開こうとしない明人に再度問いかけるが、答えようとしない。
言いたくない理由があるのか、単純にめんどくさいのか。
カクリは明人の足にしがみ付き、歩みを止めた。
「っと。なんだ?」
「先ほどから質問している。なぜ答えてくれぬのだ」
「あぁ、言葉をまとめてたんだよ」
「説明するのがめんどくさいだけらしいな。早く答えよ」
「ちっ」
カクリから目を逸らし、頭をガシガシと掻く。カクリが明人の足から手を離すと同時に歩き出した。
再度問いかけようと名前を呼ぶと、やっと重い口を開き明人が説明し始めた。
「魔蛭は悪魔の力を使い、俺と似たようなことをしている可能性がある。狙いは、悪魔の力を増幅させること。ついでに俺の捜索。おかしいと思ったんだ。俺が匣を抜き取った女、ニュースに流れていた奴と違ったからな。おそらく、あいつが無理やり抜き取ったんだろう」
「なるほど、それでニュースを見た時、怪訝そうな顔を浮かべていたのだな」
「んで、今回は俺が呪いにより倒れたタイミングで来た。ちょうど見つけたんだろうなぁ。んで、今なら簡単に俺を殺す事が出来ると判断。これから畳み掛けるように色々仕掛けてくるはずだ。俺を誘き出す目的と匣を手に入れる目的。同時に達成できる人物、今はもう一人しかいない」
「誰なんだい?」
「
名前を聞いたカクリは、目を微かに開き考える。だが、今回の依頼人の問題は解決しているはずと思い首を傾げた。
敦の匣は開け、希久の匣は取り除いた。
希子をいじめていたのは希久。希子を一人にし、自身だけのものにしようとしていた。だが、敦の匣が開いたことにより、想像していた展開とは異なってしまった。
暴走した彼女は匣を抜き取られ、感情のないただの”人形”となり果てる。
希子はもう安全のはずだった。
カクリの思考を読み、明人はヒントを出すように言った。
「匣は、無理やり黒くすることも可能。と、言ったら?」
「……なに? まさか……」
今の一言で、彼の言いたい事をやっと理解出来たカクリは眉を顰めた。
「なるほど、誘き出されているとわかっていても、行かざるを得ないという事か」
「いや、正直依頼人がどうなろうと、俺は言われた仕事はした。関係ねぇよ」
「む? それなら、何故今向かっているのだ? 体を回復させる方が先ではないか?」
今明人が普通に歩いているのは、レーツェルが呪いの進行を遅らせているからであって、効果がなくなれば明人はまた倒れてしまう。
「体力自体を回復させているとはいえ、呪いは進行する。休ませているつもりで、実際は自分を追い込めていることになるだろう。なら、今すぐにでも動き、解決に向かわせた方がいい」
明人の説明に納得し、カクリは心配そうに眉を下げつつも、もう何も言わなくなった。
二人は林を抜けると、お互い何も話さなくなり、一つの場所に向かった。
☆
今は昼間、希子は一人で本屋の袋を抱え住宅街を歩いていた。頬を赤く染め、わくわくとしている。
「ずっと楽しみにしていた本、早く読みたいなぁ」
呟きながらスキップに切り替え、家に帰る。その際、ふと。何かを感じ、青空を見上げぽつりと呟いた。
「希久、どこに行ったんだろう。親は何も教えてくれないし……」
いきなりいなくなってしまった希久を心配。
彼女は希久が自分にしてきたことや現状を知らない。親も伝える訳にはいかないと、何も伝えてはいなかった。
悲し気に顔を俯かせると、ポケットに入れていたスマホが着信を知らせた。
「もしもし敦。どうしたの?」
『今希子の家に行ったんだけど、いないみたいだったから。今日じゃなかったっけ、一緒に勉強する日』
「あ……」
『忘れてたな?』
「ごめん!! 今すぐ帰るから!!」
顔を青くし、電話を繋いだまま走り出す。その時、よそ見をしており曲がり角から来ていた人に気づかず、ぶつかってしまった。
「きゃっ!! ご、ごめんなさい!!」
ぶつかってしまった反動で、後ろに転びそうになった希子の手首を青年は咄嗟に掴み、申し訳ないというように眉を下げ微笑みを返した。
「大丈夫か?」
ダッフルコートを着用した青年、悪陣魔蛭が困惑の表情を浮かべている希子に優しく問いかけた。
「あ、私は大丈夫です、ありがとうございます」
「それならよかった。今度からは気を付けた方がいいよ、危ないからね」
「はい、失礼します」
頭をぺこぺことして、魔蛭の横を通り抜けようとする。だが、何故か掴まれている手首を離してくれず、歩き進める事が出来ない。
不思議に思い彼を見上げると、彼の瞳と目が合った。
その瞳は黒く濁っており、闇が広がっている。横に広がった口元から見える舌で唇を舐めた。
妖しく笑う彼は、先ほど彼女を心配していた優し気な男性とは別人のように変貌。
恐怖で体を震わせ、歯をカチカチと鳴らす。
「なっ、なんですか……?」
「いーや、そんな警戒しないでほしい。少し、協力してほしいだけだから」
「き、協力?」
「うん。少しだけ、舐めて欲しい物があるだけ。難しくないから、安心して」
言うと、魔蛭はポケットから一つの子袋を取り出した。中には、赤色や青色のカラフルな飴が沢山入っている。
目の前に子袋を差し出され、困惑する希子。どうすればいいのかわからず、彼の顔と飴を交互に見た。
「えっとな、詳しく話すことは出来ないんだけど。この飴は、舐めた人の願いを叶えてくれるんだ。リスクはあるけどね」
「な、なにそれ。どういう事?」
希子の質問に、青年は上がっていた口角をさらに上げ、にやりと笑った。
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