シャラララ

そらいろきいろ@魔女コメディ連載中

第1話 引きずったままで

「ほたる市から引っ越してきました、佐々木ささきさきです。よろしくお願いします」


 私の新しい中学校生活は、ぱっとしない自己紹介から始まった。

 パパの転勤で生まれ育ったほたる市を離れて、大切な幼なじみと、できたばかりの友達ともお別れして、一学期の途中から誰ひとり知らないこの町へ。

 ぱちぱち、拍手に混じって、


「ほたる市ってどこだっけ?」

「海の方じゃない? 名前的に」


 とか、


「サヤと名前似てるー、あたし間違えそう」

「サヤとサキの区別くらいできるでしょ!」


 だとか、ひそひそ声が聞こえてきた。

 あぁ、もうグループができてるんだな……なんて考えちゃって気が滅入る。

 こんなことを考えてる自分もいやだ。

 窓際の、なじみのない机に座ったら、みんながちらちら、こっそり見てた。

 一人の子と目が合っちゃって、とりあえず笑ってみて。

 ……自分で勝手に気まずくなって、窓の外を眺めた。

 やけに明るい曇り空。寂しい感じ。

 こんなとき、いつきがいてくれたら。

 あーあ、引っ越しなんて嫌だったのに。





 樹は、私の幼なじみの男の子だ。

 少し茶色みがかった髪で、真っ黒のきれいな目をしてる。

 赤ちゃんの頃から公園で遊んだ仲で、引っ越す前の家はお隣同士。

 保育園も小学校も、前の中学校も一緒だった。

 なんでも知ってて、なんでも話せる、双子みたいな関係。

 男の子っていうか樹は樹って感じで、優しくて、自信がない私を引っ張ってくれる。私はすっごく信頼してて、彼が好き。

 傷ついても、怖いことがあっても、樹といればぜんぜん平気。


 ——だったのに。


 手をグーパーする。

 こっちにくる前、最後のお別れのときに、樹は手を握ってくれた。

 高学年になってからは、お互い恥ずかしくて繋がなくなっていた、優しい手。

 あったかくて、しっかりしてて、ちょっぴり湿ってて。

 そんな感触が、ずっとここに残っている。


 お別れしたくなかったな。

 電話番号はもう一度書いて交換したけど、電話なんてほとんどしてこなかったし。

 だって、窓越しに話す方が早いから。

 電話なんて、離れてるって感じを突きつけられそうで、なんだか怖くて。

 もしかしたら、こんな感じで距離ができちゃって、もう会えなかったりするのかな。

 さみしい。

 会いたいよ、樹。

 もう引っ越して一週間たったのに、私はいまだにこんなんだった。

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