ユメゆめ夢…うつつ

春永美桜乃

第1話

 子供の頃、身近な建物が不思議空間になる夢をよく見た。

 通っていた幼稚園に、暗い下りのトンネルのような一角があり、何時も何故か転げ落ちてしまう。

 落ちてる間は長い長い滑り台みたいでみたいで楽しいのだけれど、その先は、毎度、園長室に繋がっている。

 お年を召した女性の園長先生は、優しく微笑みかけてくれるけど、礼儀を知らない上に引っ込み思案だった私は、夢の中でも挨拶も出来ず、泣きべそかきながら逃げ出してしまう。

 これが一番古い記憶かしらね?

 親戚の家にお泊りをすると、2階の部屋をぐるりと囲むように廊下が出来ていて、走り回って遊んでいると、何故か扉が一つだけあって、其処を開けると、大きな窓に白いタイルの、多分、TVドラマとか映画とかの、そんなもので見たのであろう、当時としてはおしゃれな感じの、そして、普通の一軒家にしては広すぎるお風呂場があって、次の瞬間には、西日に照らされた、さらさらの湯につかっている。

 当時、家にお風呂なんて無かった私には、その感触がとても心地よくて、ぜいたくで、目覚めて辺りを見回したけど…。

 未だあれほど心安らぐ入浴を経験したことはないかもしれない。

 父が家を新築して子供部屋が出来た。

 押し入れの奥にもう一つ部屋があって、一面が布団のようなさわり心地で気持ちがよかった。

 けれど、時折雨漏りがして、それを不思議な気持ちで眺めていた。

 雨漏りの経験を其れまでしたことが無かったのだけれど、如何にも夢の中と云う物は、何故ああも感触が現実的なのだろう?

 因みにおねしょなぞしていない。

 断じてね。

 そして今朝、おそらく大人になってからは初めてではないだろうか?

 家の階段がエスカレーターになっていた。

 両親が老いて、手すりを付けたのが、その夢の切っ掛けかもね。

 しかしそのエスカレーター、降りようとすると逆方向に動き始める中々な意地悪仕様。

 これじゃぁ何ともいただけないが、これはこれでなかなか楽しい。

 無邪気に燥ぐ、私の姿は何時しか子供に…。

 だけど、「乗り物」から降りられないと云うのは子供心を不安にさせるもの…。

 加えて何だか時間が気になる…。

 でもご安心あれ。

 夢とは見ている本人に都合よく出来ている世界。

 ほらね、目の前にトランシーバーのような機械が出て来た。

 如何やらこれは取り付けた会社との直通の模様。

 そいつを手に取り止める方法を聞くのだけれど、あれあれ?

「都合の良い世界」は何処へ行った?

 通信先の相手の声が聞き取れない。

 何か大切な時間が迫っているのに、ええい、この役立たず!

 と、機械を放り投げたところで、はい、微睡みの中。

 あぁ、もう朝か…。

 こんなに年をとっても、未だ、精神は子供のままなのかと、夢に思い知らされ、されども気分は長閑に、何とも懐かしい感じの夢を見たなと、徐にスマホを手に取り、そして…。

 ………。

 履歴に一件知らない番号。

 いやあ、久しぶりに、シャキッと目覚めました。

 てっきり、寝ぼけてやっちゃいましたかと思いましたよ。

 よく見りゃ、ただの着信履歴。

 全く早朝から人騒がせな!

 いえいえ、私が勝手に思い込んで踊っていただけですけどね…。

 おしまい

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ユメゆめ夢…うつつ 春永美桜乃 @sakura46gou

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