人狼げぇむ

夜ト。

プロローグ

 MIDNIGHT。それがは、一種の宗教のような集まりだった。

 MIDNIGHTの創設理由は、くだらないもので「教師や親の愚痴を云う」と云うのが理由だった。

 しかし、途中から愚痴の云い合いではなく、お悩み相談会のようになった。そして、その悩みを聞く人――カウンセラーのような役職ができた。

 最初にその役職についたのは、MIDNIGHT創設者の桑原亮くわはらりょう――俺の兄だ。

 兄は人の心を操る――心に入り込むことが異常なほど上手く、多くの人の悩みを解消していった。兄のカウンセリングは偉大で、それに依存する人間も現れた。そうしていく中で、兄はカウンセラーではなく「」と呼ばれるようになった。

 そうして、MIDNIGHTと云うが生まれた。

 そして、MIDNIGHT創設から三年と少しした頃……兄は死んだ。

――殺されたのだ。

 MIDNIGHTが使っているワーキングスペースは、午後九時以前に入ることが禁止されていた。入れたのはただ一人、兄だけだ。

 その日、兄を手伝うためにワーキングスペースに向かった。

 まだ午後八時半頃だったが、ワーキングスペースの扉の前には大勢の人――当然殆どが学生――が並んでいた。

 そして、午後九時。一番扉の近くにいた人が扉を開いた。

 いつもなら兄の「どうぞ」の声が聞こえてくる筈だった。

 しかし、兄の声は聞こえてこなかった。人と人の間から扉の奥を覗くと、中に兄はいなかった。

 だが、ある人が奥の部屋の明かりが漏れていることに気がついた。そこは、兄の個室で鍵がかかっている筈だった。が、なんと扉が空いていた。

 誰かが中を覗いた――と同時に聞こえてきたのは悲鳴だった。

 すいません、と云いながら人をかき分け、扉の前につくと……目に飛び込んできたのは血に塗れた兄のだった。胸には包丁が突き刺さり、頭は潰れ、近くには血塗れの金槌が転がっていた。

 警察に――皆がそう考えただろう。

 しかし、MIDNIGHTにはルールがあった。

 MIDNIGHTの存在をむやみに他言してはならない。

 あくまでMIDNIGHTは知っているものしか知らない、隠れた存在なのだ。

 兄に依存し、神ともてはやしていた人間はそのルールを守ることを優先し、警察に届けることはなかった。そして桑原亮は行方不明となって創作届が出されたが、当然死んでいるのだから見つかることはなかった。

 そしてMIDNIGHTの達は、MIDNIGHTを必ず引き継ぐと決意し、それと同時に兄――桑原亮の死は記憶から薄れていった。

 そう、あの事件は終わったはずだった。あのとき終わったはずだったのだ。

 しかし、兄の死から五年がたった今、俺――桑原優くわはらゆうに一通のメールが届いた。そのメールアドレスを見たとき、思わず目を疑った。

――Ryoukuwahara-MIDNIGHT@index.com

 そのアドレスは、死んだ兄の使っていたメールアドレスだったのである。

 震える手でその通知をタップした。

『俺を殺した犯人を探し出して殺せ。人狼ゲームの始まりだ』

 俺は確信した。これは兄が書いたメールではない。もし本当に兄が生きていてメールを出してきたとするならば、文面は『俺を殺した犯人を探し出して殺してください。人狼ゲームの始まりです』となる筈だからだ。

 では、どこの誰が、なんのためにこんなメールを出したのだろうか。今更、犯人を暴こうなんて巫山戯ている。

 メールには続きがあった。

『人狼ゲームの会場はあのワーキングスペースだ。開催日は明日、午後九時からだ』

 今更誰が――。

 いや、誰だっていい。おそらく、このメールはMIDNIGHTの信者全員に送られているのだろう。

 ならば、明日会場に行けば何がどうなっているのかがすべて分かる。

 スマートフォンを投げ、ベッドに沈んだ。

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