第2話 その厨二病まだ治らないの?

「ふはははは、よく来たな! 『バズった! バズった! バズーカ』!」


バスった! バズった! バズーカ:はい! 修学旅行の準備で昨日来れませんでしたけど、終わったので来ました!


「修学旅行か、俺の学校もそろそろだな」


端末が壊れていてぴえん:バズった! バズった! バズーカさんと一緒じゃんwww案外同じ学校だったりしてwww


「んな偶然あるか!」


叫ぶ骸骨:だよね!


 たまたまリスナーと同じ学校なんてのは創作物の中だけだよ。

 そんな幻想に俺はすがらないぜ! 彼女は別の方法で作る予定である。

 ただし、その方法は不明である。


名無しの梨:修学旅行楽しみっすね!

フランスのゴリラ:シン様について行きたい♡

ハートは君の心臓:⸜(*˙꒳˙*)⸝

ゴールデンウィークは休みたい:シン様が座る新幹線の座席と代わりたい\(//∇//)\

せれな:私も修学旅行よ


 ふーん、せれなのやつも修学旅行か。

 まあ、六月だし、修学旅行に適している季節だよね。別の学校と被ってもなんら不思議ではない。


「今日は、あの生徒会長に焼きそばパン買ってこいって言われたよ!」


名無しの梨:やばwww

フランスのゴリラ:あの女、許せない……

ハートは君の心臓:( ´・ω・` )

ゴールデンウィークは休みたい:シン様になんてことを! 私がシン様の代わりに買ってくるよ!

せれな:金はちゃんと払ったわ


「だが、それで終わる俺ではない! 焼きそばパンの袋をちょっとだけ開けて、ラー油を入れてやったぜ!」


名無しの梨:おっ、地味に嫌なやつっすね!

フランスのゴリラ:これであの女もこれ以上調子に乗れないね!

ハートは君の心臓:_( ˙꒳​˙ _ )

ゴールデンウィークは休みたい:そのラー油の袋まだ残ってる? シン様!

せれな:だから、少しからかったのね


 いや、最高な気分だわ。

 空風さんに気づかれなかったから、復讐になっていないと思ったけど、リスナーのみんなに話したら、案外そうでもない。

 俺は立派な復讐を遂げたんだ……。


「お兄―――」

「―――ああああああああぁぁぁ! トイレが俺を呼んでる! みんなしばらくお待ちを!」


 急いでマイクをオフにして、振り返る。

 そこにはふわふわしたパジャマを着て眠たげな目を擦っている我が愛しき妹の姿があった。


恋奈こいな、何度言ったら分かる!? お兄ちゃんの部屋に入る時はノックしろって言っただろう!」

「いや、ノックしたよ? お兄ちゃんが配信に夢中だったから」

「俺のせいみたいに言うね!」

「実際お兄ちゃんのせいよ?」


 くっくっくっ、我が妹ながら正論をかましてくるとはさすがというしかない。

 完敗だ。お前がナンバーワンだ、恋奈……。


「ところでさ、お兄ちゃんっ」

「なにかね、恋奈くん」

「その厨二病まだ治らないの?」

「大丈夫! 学校では隠してる!」

「そうなのね……」


 やめろ! そんなジト目で俺を見つめるな! お兄ちゃん傷つくだろう!


「恋奈、リスナー待たせてるから、そろそろ部屋出てくれない?」

「こいなよりリスナーのほうが大事なんだー」

「両方大事だよ」

「今日の晩御飯、お兄ちゃんの分ないから……」

「待って! 恋奈、ゆっくり話そう!」


 そっとドアを閉めて、恋奈は無情にも、俺の叫びを無視して出ていった。残されたのは俺と、まだ配信活動を続けているPCパソコンのみである。


 ちなみに、俺は俺でも、晩御飯を抜きにされた俺である。

 繰り返しますが、今日の俺の晩御飯はなしである。


 同い年の妹が仕事の忙しい両親に代わって家事しているから、頭が上がらない。

 なぜ妹なのに、同い年だって? 継母ままははの連れ子で血が繋がっていないからだよ! 決して双子ではない!

 生まれる前から女の子と仲良くする機会が俺になかったのだ!


「みんな、ただいま……」


名無しの梨:どうしたっすか? トイレでなにかあったっすか?

フランスのゴリラ:うちのシン様が元気ない!?

ハートは君の心臓:(;A;)

ゴールデンウィークは休みたい:シン様のドーパミンになりたい!

せれな:また晩御飯抜きにされたのかしら?


「ちょっ、せれな、お前何言ってんだ! あはは、あはははは」


 とりあえず乾いた笑いで誤魔化す。

 このせれなってやつ、エスパーかなにかかな。変なコメントに加えて、よく俺のことを言い当てたりする。恐ろしい……。




「今日の配信はここまでだよ! 諸君! それではいつもの挨拶行くぞ! シンなら!」


名無しの梨:シンならっす!

フランスのゴリラ:シン様、シンなら!

ハートは君の心臓:‪(ง ˙˘˙ )ว

ゴールデンウィークは休みたい:シンなら♡

せれな:晩御飯作ってあげようか?


 流れていく俺が考えた配信終わりの『シンなら』というコメントに心が熱くなっていく。

 これが一万人のフォロワーを持つ配信者にしか見えない風景なのか……。

 今来ているリスナーが1000人くらいだから、まあまあ『リスナー÷フォロワーの同接率』が高いのではないだろうか?


 ほんと、あの生意気な生徒会長にも俺の凄さを話してやりたい!

 でも、身バレしたら、クラスに居づらいよな……。

 普通に詰んだ。


「……お兄ちゃん」

「いつの間にいたんだ!? 恋奈! ノック―――」

「―――こいなちゃんとしたよ?」

「あっ、そうですか……」

「アイス買ってきてくれたら、ご飯作ったげる」

「ただいま!」


 帰宅部で昼寝が大好きで、引きこもりがちな恋奈のために、お兄ちゃんは代わりにどこにでも行ってくるよ!

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