のじゃロリ神様はきまぐれで時を転がす
すーちょも
幽霊少女の未来
プロローグ 「幽霊女子高生」
『神』
それは信仰心を向けられ、人々から崇拝、尊敬されると同時に畏怖されるものだ。
ーーーーーー
9月21日
夕日が地平線の下に沈もうとしている初秋のある日、【
「幸人~、まだか~?」
料理の匂いが部屋中に充満し、【クロ】の腹ぺこ具合が限界を迎えたらしい。背後から、クロの、料理を催促する声が聞こえた。チラッと目線をクロの方に向けると、クロはちゃぶ台の側で寝転んでいる。
(だらしないな〜)
「もうできますよー」
「早くするのじゃ~、腹が減りすぎて腹と背中がくっつきそうじゃぁ……」
そんなわけないだろと俺は心の中でツッコむが、わざわざ口に出すのは無粋だろう。
「そんなこと言ってますけど、食べる用意できてますか?」
「もちろんじゃ! この通り、皿も出したし、箸も出しておる!」
「んー」
もう一度振り返ると、自信満々で、仁王立ちをしながらドヤ顔をしているクロがいた。それと同時にクロに付いているしっぽが左右に揺れている。
幼い女の子の姿をしているクロだが、頭の上のケモミミとしっぽは普通じゃない。なぜ、こんな姿をしているのかというと、クロはこの神社に奉られている神様なのだ。
ちなみに【クロ】というのは俺が勝手にそう呼んでいるだけで、クロの毛の色は黒色ではなく光沢のある金色だ。
そしてその金色の毛は、白の布地に、赤のラインが入った清楚な巫女服が包んでいる。
(まあ、神様が全員ケモミミとしっぽが付いているとは限らないけど……)
「何を呆けておる! この通り、用意も済んでおるではないか! はよう飯を作らぬか」
俺はケモナーとしてクロの毛並みに改めて感動していたが、そんなことはお構い無しにクロは食事を催促する。
「いや、」
確かにちゃぶ台を見ると、食器は綺麗に並んでいる。だが、一つ気になることがある。クロの性格を考えると、あることをしていないだろう。
「手……洗いました?」
手洗いだ。
「……洗ったのじゃ」
面倒くさがりのクロのことだ、わざわざトイレにある手洗い場に行くことはしていないだろう。聞いただけで目が泳ぎまくっている。
「嘘だったら今日の味噌汁は玉ねぎてんこ盛りにしますよ?」
「うっ……洗ってくるのじゃ」
だが、クロの苦手な玉ねぎの名前を出すだけで、クロは親に怒られた子供のように、素直に手洗い場に向かって行った。
(なんていうか、クロって見た目と一緒で中身も子供っぽいんだよなー)
クロはこの神社に奉られている神様で、悠久の時を生きている。だが、見た目はどう見ても幼女で、中身も幼い。
「……ロリババアってやつか」
ネットで神様のことを調べるとそんな単語が出てきた。見た目は子供! 中身は大人! ……クロの場合、中身も子供だけど、年齢は3桁は余裕でいってると思うからロリババア……? っていうやつになるらしい。
「んっ、うまっ」
(よし、できた)
そんなことを考えていると料理を終わった。俺は皿に料理をよそい、ちゃぶ台の上に並べていく。
「幸人〜!」
「あー、おかえりなさい。料理もう出来て
「そんなものはどうでもよい!」
「え? ……ぅえぇえええええ!!!???」
(三度の飯よりご飯が大好きなクロが、料理を前にどうでもいいだと!?)
「大丈夫ですか!?」
あまりにありえないことにクロに熱があるんじゃないかと疑い、俺はクロのおでこに手を当てた。
「なんじゃ? 我はどこもおかしくなっておらぬ!」
だが、クロはその手を振り払って否定した。
「じゃ、じゃあどうしてどうでもいいなんて……」
「っ! そうじゃ! この神社に参拝客が来ておるのじゃ!」
「……え?」
(サンパイキャク……? この神社に参拝客!? 初詣の時ですら、隣のおばあちゃん1人しか来なかったこの神社に参拝客!?)
腰を抜かして驚いた俺は、あわてて身繕いをした。
「た、大変じゃないですか!」
「だからそう言っておるじゃろ! はようもてなしに行くのじゃ!」
「わ、分かりました!」
こんなに俺とクロが慌てる理由は、この神社に初詣のおばあちゃん以来参拝客が来ていないからだ。そのためクロへの信仰というものは著しく少なく、それはクロの力の源に直結する。
そのため、深刻な信仰不足を解消するためにも今来てくれている参拝客をリピーターにするしかないのだ。
ーーーーーー
「……」
茂みから拝殿を覗くと確かに制服を来た人影が見える。
少し距離はあったが、黒髪ロングの女の子が賽銭箱の前で頭を下げているのが確認できた。
(俺と同じ学校の女子生徒か?)
よく見るとうちの学校の制服だ。少しおかしいのは、衣替えをしたはずなのに格好が……夏服のままなのだ。
「何をしておるのじゃ。はよう声をかけぬか」
「いやー……」
クロは分かっていないようだが、そもそも1人で参拝に来ている女の子に声かけること自体ハードルが高いのに、それが同じ学校の生徒となると……
(もはや不審者なんだよな……)
学校で目立たないようにしている俺からすると、今からしようとしていることはほとんど拷問に近い。
「その……やっぱりやめません? ほら、あの子も怖がるだろうし」
俺は明日穏便に学校に行きたい、なんとかこの不審者ムーブを回避するために、クロにこんなことやめるように提案したその時だった。
「いいから行かぬか!」
痺れを切らしたクロに、俺は背中を蹴とばされた。
「おわっ!」
すると、そのはずみで俺は茂みの中から飛び出してしまった。
「っ!」
女の子は、茂みから飛び出して派手に転んだ俺に驚いたらしく、その体をビクッ! と跳ねさせた。
「いてて……って、あっ……」
目が合うと微妙な空気が流れた。そりゃあそうだろう、いきなり茂みから人が出てくるんだから。俺がこの人の立場なら、今すぐにでも110番に連絡する。違うんですよ、不審者は俺じゃなくて、後ろにいるちっこい奴なんです。
(とりあえず弁明しないと)
そう思った俺は立ち上がって、1歩前に出た。
「っ……!」
そして、彼女の姿を間近で見た時、俺は言葉が詰まった。何故かって? それは単純に、年頃の男子として、容姿の整った彼女に胸が高鳴ったからだ。
近くで見ると分かったが、彼女のロングの黒髪は夕日に照らされ、一本一本が絹のようにきめ細かく、綺麗なのが分かる。大きくてきれいな黒い瞳には、どこか妖艶で吸い込まれるような魅力があり、華奢でスラリとした彼女の体を包んでいるセーラー服は、あまりの彼女の可憐さにドレスのように思えてしまう。見た感じだと1つか2つ年上に見えるが、彼女の雰囲気は大人の女性の魅力を感じさせる。そんな彼女を一言で表すとするなら……
(美少女だ……)
「あ、あの……」
「は、はい?」
そんな微妙な雰囲気を破ったのは彼女の一言だった。
「私、幽霊なんだけど……君は私が見えるの?」
「……へ?」
これは、俺達がもう一度心の底から笑えるようになるまでの物語だ。
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