12.バイドルSide〜禁欲からの解放〜

 この一月と一週間ほど、生き地獄というものをこれでもかと味あわせられた毎日だった。

 しかしそれも今日で終わる。


 くう、今まで本当に長かった……!

 こんな目に合わせた憎きメリーヌタを女王様と呼んで媚びへつらい、心を改めて真面目になった演技をするのは正直とても辛かった。


 だがなにより辛かったのは、禁欲生活を続ける上であの女があまりにも目に毒であったことだ。


 あの氷のように冷たい顔も、体全体からふわりと香る甘くていい匂いも、素肌が隠れているからこそ逆に妄想がはかどる肢体も、……そして眼前でブルンブルンと上下に揺れるあの二つの膨らみオッパイも、そのすべてが俺の性欲を刺激した。


 性格はともかく、見れば見るほどエロい美人が女日照りの俺の近くにいたのだから、ムラムラが止まらなくて本当に気が狂いそうだった。


 だがいつまでも成長しない俺でもない。なんとこれまでの生活で、性欲をある程度コントロールできるようになったのだ!


 おかげでメリーヌタを妄想の世界で陵辱の限りをつくそうが貞操帯の金具に締め付けられることもない。

 その代わり自分でも若干勃ちが悪くなった自覚はあるが、まあ時間が解決してくれるだろう。


「今日まで大変お疲れさまでこざいました。よく頑張られましたねバイドル王子」


「今度こそ本当に貞操帯これの拘束を解除してくれるんだろうな? まさかまた性教育の期間延長だと言われたらマジで困るぞ」


「いいえ、心配なさらずとも結構ですよ。今度はきちんと約束をお守りいたしますから」


 その一言でホッと胸を撫で下ろす。


「ではそちらの貞操帯の錠を取り外しいたしますから、ジッとしていてくださいませ」


「ああ、任せる」


 俺の股間の辺りで腰を降ろし、そのままカチャカチャと鍵を外しているメリーヌタの姿は見ようによっては口淫前のそれと似ている。


 ああ、このまま実際にこいつの口にアレを強引に突き入れたら、どれだけの気持ちよさと征服欲が満たされることだろうか。


 だが、まだ早まるな。

 もう少し大人しいフリを続けるんだ、俺。


「――終わりました」


 やがて貞操帯の錠前が外されると、


「こちらの鍵の方はいかがされますか?」


「処分はしなくていい。俺の方で戒めとしてその鍵を預かっておくよ」


「それは殊勝なお心がけです。ではこちらを大切に保管されてください」


 鍵を受け取り、そっと懐に入れた。


 よし、これで俺を煩わせる枷はなくなった。

 これで、晴れて自由の身というやつだ。

 なら当然、これからすることは決まっている。


「そうそう、このあとバイドル王子には性教育の成果を試すべく最終試験が――」


「あ? 知るかよバーカ!」


 拘束から解放された俺は勢いに任せてタックルをし、メリーヌタを自身ごと床に押し倒した。


 続けて、いまだ丸出しのままの下半身で奴の腹にまたがってマウントポジションを取り、そこでようやく勝利を確信する。


 これまで脳内で思い描いていた、一連の流れが役に立った。ついでに息子もバキバキに勃った。歓喜の涙をダラダラと流している。


「これはどういうおつもりですかバイドル王子」


「はっ、どうもこうもあるか! 俺はな、復讐の機会をずっと伺ってたんだよこのクソメイド!」


「ふふ、つまりこれまでずっと猫かぶりなされていたわけでございますね。ようやく皮が剥けたと思っていたのですが、どうやら思い過ごしだったようで残念です」


 俺を見上げるメリーヌタの余裕たっぷりな態度が気に入らない。


「性処理にしか役に立たねぇ女の癖にいつまでもそうやって済まし顔してんじゃねーぞ、ああっ⁉ この状況なら普通は恐怖で怯えるところなんだっつーの!」


 だから拳を握り、まずは数回この女の顔をぶん殴ってやった。

 少し見てくれが悪くなるのは困るが、こうでもしないと俺の気が収まらない。


「…………っ!」


 おい、顔面をこれでもかと強打してやったのに歯を食いしばって耐えていやがるぞこいつ。


「ちっ、悲鳴の一つでも上げやがれっての、本当に可愛げのない女だぜ。そうすればもっと気分もスカッとするってのによ。まあいい、お楽しみはまだまだこれからだ」


「……おやおや、小悪党の台詞がずいぶんと板についておりますね。どうです、いっそのこと王子ではなく役者にでも転身なされた方がよろしいのでは?」


「ふん、強がりを。いいぜ、ならお前はいつまでそんな顔をしていられるかな?」


 この期に及んでまだ平静を保とうとするこいつに分からせてやるとするか。

 いくら強がってみせたところで女はしょせん男には敵わず、体は正直だってことをなぁ!


 まずはメリーヌタの胸元に手をかけ、ビリビリと力任せに邪魔な衣服を引き裂こうとしたところで、


「――お主、なにをしておるのだ」


 聞こえるのがありえないはずの、聞き慣れた声を耳にした。

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